Bacillus thuringiensis(BT) A297株が産生する培養ガン細胞に損傷活性を示すタンパク質について、これまでに、蛍光プローブを用いた解析から、その活性が細胞膜の損傷に起因していることが明らかになっているが、本体を特定することができていない。近年の次世代シークエンサーの進展およびさまざまな遺伝子解析ツールによって、二次代謝産物生合成遺伝子クラスターを予想することが容易になっている。また、Bacillus属細菌が生産するNonribosomal peptidesのうち、例えばBacillibactinやBacillomycinなどいくつかの二次代謝産物には培養細胞に損傷活性を示すことが近年明らかとなっている。そこで、BT A297株のゲノム解析を行った結果、9つの二次代謝産物遺伝子クラスターが存在することがわかった。さらに、本菌株には、8つのプラスミドが存在し、そのうち3つのプラスミド上に合計9つの二次代謝産物遺伝子クラスターが存在した。これら18の遺伝子クラスターのうち、1つのみが既知物質のものであり、ほとんどが未知物質の生産に関与することが明らかとなった。一方、BT A297株を25℃で14時間培養すると細胞損傷活性を示すものの、37℃で培養した場合、その活性を失うことがわかった。そこで、それぞれの条件で培養したサンプルの遺伝子発現量解析を行った。その結果、本菌株が生産する二次代謝産物のうち、2種類の生産関連遺伝子の発現量が上がっており、一方はfengycinと40%の相同性を示し、もう一方は全く新規なものであった。また、本菌株のゲノム上に存在する3種のエンテロトキシンのうちHblの遺伝子発現量が5倍から8倍上昇しており、Hblの関与も考えられた。現在これらの遺伝子破壊株を構築して活性本体の特定をすすめている。
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