研究課題/領域番号 |
17K07782
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研究機関 | 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 |
研究代表者 |
森 昌樹 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 生物機能利用研究部門, ユニット長 (50192779)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | イネ / ファイトアレキシン / 転写因子 / ストレス抵抗性 |
研究実績の概要 |
イネのジテルペン系ファイトアレキシン(DP)はいもち病感染やUV、塩化銅処理等のストレスに応答して生合成されること、抗菌活性のみならず雑草に対する成長抑制活性を有することが報告されている。我々は最近、DP生合成のキーとなる転写因子DPFをイネより見出し、DPF高発現(OX)イネではDP生合成遺伝子群の転写活性化を介してDPを蓄積するのに対し、DPFノックダウンイネでは根において逆にDP生合成遺伝子の発現レベル及びDP蓄積量がWTよりも低下することを明らかにしている(Yamamura et al., 2015)。 本研究では、まず、上記のストレス応答的なDP生合成がDPFに依存しているのかどうか?という疑問に対し、DPFノックアウト(KO)イネを用いて、初年度塩化銅及びUVストレス応答的なDP生合成について、2年目にはいもち病菌感染誘導的なDP生合成について、DPFに依存することを明らかにした。つぎに、DPFはストレス抵抗性に関与しているか?という疑問に対しては、初年度に紋枯病感染やトビイロウンカ吸汁に対する抵抗性を評価したところDPFの関与は認められなかったが、2年目にいもち病抵抗性に関与していることを、KOイネを用いて明らかにした。なお、UVや塩化銅に対する抵抗性への関与は認められなかった。また、雑草抵抗性に関与する可能性も考えられたので、初年度はDPF-OXイネで根からのDP滲出量が増大していることを示した。2年目にDPF-OX/KOイネの雑草抵抗性をWTと比較したが、顕著な差は見いだせなかった。さらに、上記のようにDPFがいもち病抵抗性に関与していることが示されたが、それは下流のDPが関与しているのかどうかを明らかにするために、4種のDP生合成初期遺伝子(CPS2, CPS4, KSL7, KSL4)のKOイネをCRISPR/Cas9法によりそれぞれ作出した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
[病虫害ストレス抵抗性]いもち病菌感染ストレスに応答してDP生合成遺伝子の発現が誘導されることが知られているが、それがDPFを介しているかどうかを、DPF-KOイネを用いて調べた。DPF-KOイネでは誘導レベルが低下したため、DPFはいもち病菌誘導的なDP生合成遺伝子の発現誘導に関与していることが示された。また、DPF-KOイネではいもち病抵抗性も低下していたため、DPFはイネが本来有するいもち病に対する抵抗性にも関与していることが明らかになった。 さらに、イネの害虫であるオカボノアブラムシに対する抵抗性検定を高知大学手林博士の協力により実施したが、DPF-KOイネではWTと比べ特に抵抗性に差は認められなかった。 [非生物的ストレス抵抗性] 塩化銅処理及びUV照射に対する抵抗性検定をDPF-KOイネで実施した。塩化銅処理は、水耕栽培で根から各濃度(5, 10, 15, 20, 25 μM)の塩化銅を吸収させることにより行った。UVは植物体にUV-Cを30cmの距離で短時間(10, 20 ,30 min)照射した。両処理共に処理後の植物体の生育を比較したが、WTと比較して抵抗性に顕著な差は認められなかった。 [雑草抵抗性] 寒天培地中にDPF-KO、DPF-OX或いはWTイネを植え、周りにレシーバー植物としてシロイヌナズナを配置するプラントボックス法でアレロパシー活性(生育抑制活性)を評価したが、DPF-KO/OXとWTで顕著な差は認められなかった。 [DP生合成の初期遺伝子のKOイネの作製]初年度に引き続きCRISPR/Cas9法によりDP生合成初期遺伝子(KSL7,KSL4)のKOイネを作製し、KSL7についてはホモ型変異が挿入された系統を取得した。KSL4についてはヘテロ型変異体しか得られなかったので、次世代でホモ型変異体を得る予定である。
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今後の研究の推進方策 |
平成29及び30年度に得られた結果をもとにして以下の研究を実施する。 [DP生合成の初期遺伝子のKOイネにおけるDPの定量]30年度までに作製したDP生合成の初期遺伝子(CPS2, CPS4, KSL7, KSL4)のKOイネについて、生物的或いは非生物的ストレス処理後のDP蓄積量を定量し、KOが成功していること即ちモミラクトンやファイトカサンが生産されないことを確認する。CPS2やKSL7に変異を導入するとファイトカサンが生産できなくなり、CPS4やKSL4に変異を導入するとモミラクトンが生産できなくなることが予想される。 [DP生合成遺伝子欠損イネ等を用いた病害抵抗性評価]30年度に実施したいもち病抵抗性評価でWTに比べDPF-KOイネで抵抗性が低下していたので、DPF下流のDPが、いもち病等の病害抵抗性に関与している可能性が高い。しかしながらDPF下流のDPは大きく分けてファイトカサンA-F、モミラクトンA,B、オリザレキシンA-F、オリザレキシンSの4グループからなり、どのグループの関与が大きいかは未知である。そこで、作製した4種の生合成遺伝子欠損イネを利用することにより、イネ本来の抵抗性にどのグループのDPがより関与しているかの絞り込みを行う。 さらに、時間的余裕があれば、DPFやDP生合成遺伝子の欠損イネにアーバスキュラー菌根菌を感染させ、菌根共生の成立へのDPFやDPの関与の有無を解析する。 得られた結果を取りまとめ、成果の発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初ノックアウトのターゲットを1遺伝子につき1つと計画していたが、初年度に、オフターゲット効果を避けるために1遺伝子につき2つに変更したため、KOイネを当初計画の4系統からその倍の8系統作出することとなり、時間がかかり、計画が遅れ気味になった。その遅れを2年目も幾分引きずっており、そのために次年度使用が生じた。本年度は積み残し分(KSL4のホモ型変異体の取得等)の遂行等にその分を使用する計画である。
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