研究課題/領域番号 |
17K07785
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研究機関 | 地方独立行政法人大阪産業技術研究所 |
研究代表者 |
佐藤 博文 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 森之宮センター, 研究主任 (70443546)
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研究分担者 |
渡辺 嘉 地方独立行政法人大阪産業技術研究所, 生物・生活材料研究部, 研究主任 (60416310)
川崎 英也 関西大学, 化学生命工学部, 教授 (50322285)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ワンポット反応 / 酵素反応 / アルコールデヒドロゲナーゼ / chemo-enzymaticプロセス / 1-フェニルエタノール |
研究実績の概要 |
本研究は金属触媒反応と生物触媒反応を組み合わせたマルチステップワンポットchemo-enzymatic反応システムを構築することを目的としている。平成29年度は金属触媒反応として酸化マンガンを用いた酸化反応の最適化を行い、ジクロロメタン中転化率99%以上で (rac)-1-フェニルエタノールアルコールを得る反応系を開発した。一方、生物触媒反応としてデヒドロゲナーゼLK-ADHを用いた還元反応の最適化では、アセトフェノンの還元により 光学活性な(R)-フェニルエタノールを96%の化学収率と99%ee以上の光学収率で得る反応系を開発した。以上より、金属触媒反応と生物触媒反応がそれぞれ良好に進行する反応条件を見つけることができた。 続いて、それぞれの反応を組みあわせたワンポット反応を行ったところ、酵素による不斉還元が進行せず、中間体となるアセトフェノンが95%で得られることがわかった。この原因は酸化マンガンによる酵素の失活であり、酸化マンガンの添加からわずか10分で活性が1/10に低下することがわかった。この問題点を解決するために、ポリジメチルシロキサン (PDMS) で作成した膜容器を用いて酸化反応と還元反応にしきりをして逐次反応を行った。最適化した条件を基に、PDMS膜を用いた逐次反応を行った結果、(R)-1-フェニルエタノールが収率31%、光学収率99%eeで得られた。これにより、PDMS膜を用いた酸化反応と還元反応がともに進行し、互換性のない金属触媒反応と生物触媒反応がPDMS膜を用いることでワンポットchemo-enzymatic反応システムとして有効に機能することがわかった。それぞれの触媒量、補酵素の再生に必要なイソプロピルアルコール量を最適化することにより、最終的に収率92%、光学収率99%eeの系を開発することができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
平成29年度の研究目標は、研究の骨子となる光学活性な1-フェニルエタノールのchemo-enzymatic生成プロセスを開発することである。 研究のステージはそれぞれの①素反応の最適化、②素反応同士の組み合わせの確認、③うまくいかない場合にPDMS膜の有効性を確認すること、④PDMS膜を用いたchemo-enzymaticプロセスの最適化による化学収率と光学収率の改善、⑤生成物のHPLC分析条件の開発であるが、①ではそれぞれの素反応が定量的に進行する条件を見つけ出すことができた。②では、単純な素反応同士の組み合わせではchemo-enzymatic反応が進行しないことがわかり、これが酸化マンガンによる酵素あるいは補酵素の失活であることを突き止めた。③ではPDMS膜を導入することにより酸化マンガンと酵素の接触を断ち、化学収率は低いもののchemo-enzymaticプロセスが進行することを示した。④では各試薬の量を最適化することにより92%の化学収率と99%eeの光学収率を達成した。⑤では1-フェニルエタノールの芳香環にメチル基やクロロ基が導入された誘導体について、その光学異性体を分離できる条件を確立した。 以上のように、平成29年度に計画されていたすべての計画について良好な結果が得られており、研究は順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
次年度の計画では、本年度に確立したchemo-enzymaticプロセスを基に、基質特異性の調査を行う。基質の準備および生成物の分離条件も確立しており、計画通り各種基質特異性および反応の拡張性について検討を行う。併せて、基質と生成物の絶対配置が逆となるような、光学反転法の確立にも取り組む。 以上のように、平成30年度では特に計画を変更することなく、研究を遂行していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究で用いている1-フェニルエタノール類やアセトフェノン類の迅速な分析のためにガスクロマトグラフィー装置(およそ150万円)が必要となり、次年度分と合わせてこれを購入するため。
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