魚油の摂取はアレルギー疾患の発症予防や症状緩和に関連すると報告されており、その作用機構について複数の仮説が提起されている。申請者は、魚油に含まれる多価不飽和脂肪酸の一つであるドコサヘキサエン酸(DHA)に着目し、標題の研究を行った。これまでに、ヒト体内でDHAから産生されるドコサヘキサエノイルエタノールアミド(DHEA)がマスト細胞や好塩基球の脱顆粒反応を抑制する知見を得ている。また、DHEAはFc epsilon RI経路のSykより上流で作用して、脱顆粒に関連する細胞内シグナルの伝達を阻害し、その結果、脱顆粒を抑制することを明らかにしている。 2019年度は、マウス骨髄細胞を分化させて作製した骨髄由来マスト細胞を用いて、DHEAの脱顆粒抑制効果を検討した。その結果、DHEAは濃度依存的に骨髄由来マスト細胞の脱顆粒を抑制した。また、骨髄由来マスト細胞は、マスト細胞/好塩基球のモデル細胞株であるRBL-2H3細胞よりもDHEAに対する感受性が高いことを見出した。 さらに、花粉症モデルマウスを作製し、DHEAを一定期間経口投与した。その結果、DHEA投与マウスでは、非投与マウスと比べて花粉症の症状が低減した。また、DHEA投与マウス由来脾細胞を培養した結果、非投与マウス由来脾細胞と比べて、アレルギー関連サイトカインの分泌が減少した。また、DHEA投与マウスと比べると効果は若干弱いものの、DHA投与マウスにおいても同様の抗アレルギー効果が認められた。これらの効果は、マスト細胞ではなく、リンパ球など他の免疫細胞にDHEAやDHAが作用して生じたものと推察された。 本研究の結果から、DHAの抗アレルギー効果は、DHEAへの変換後に生じる脱顆粒抑制作用に加えて、DHEAおよびDHAのリンパ球への抗アレルギー作用に基づいて生じるものと推察された。
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