研究実績の概要 |
本研究は、がんの化学療法の補助食品としての応用を目的として、新奇褐藻由来抽出物である酵素消化低分子化フコイダン抽出物(LMF)がもつ、がん細胞特異的な抗腫瘍効果の検討を目的としている。平成29年度は糖鎖機能改変機構に関わるLMFの生理機能の検討を行った。細胞ががん化すると糖鎖合成不全が起こり、腫瘍マーカーに利用されている様な変化した構造の糖鎖が発現する。糖鎖異常とがんの悪性形質には正の相関関係が見られることは古くから知られている。そこで、本研究ではがんの悪性化への関与が報告されているβ-1,6-GlcNAc分岐鎖を生成する糖転移酵素GnT-Vに注目し、その上流制御因子のEts-1のさらに上流にあるシグナル経路に及ぼすLMFの効果を検討した。Ets-1はWnt/β-catenin signaling系による制御が知られており、これらの分子の関与をタンパク質レベルでwestern blotting法を用いて検討を行った。ヒト結腸腺がん由来HCT116細胞にLMF処理を行いβ-catenin発現に及ぼす効果を検討したところ、LMF処理によるβ-catenin発現変化はほとんど見られず、LMF処理による糖転移酵素発現制御には他の制御因子の関与が示唆された。抗がん剤とLMFの併用による抗がん効果の増強効果の検討を行った。LMF処理の併用は臨床で広く使用される白金製剤系抗がん剤であるカルボプラチンのがん細胞への細胞死誘導効果を共同的に増強することが確認された。HCT116細胞を用いてカルボプラチンとLMFの併用処理を行った場合の細胞周期解析を行った。カルボプラチンの単独処理は細胞周期のG1期減少とG2M期増加を誘導したが、LMF単独処理ではその様な効果は見られなかった。両者の併用処理においてはカルボプラチン処理が細胞周期に及ぼす効果をLMF処理が増強しているという結果が得られた。
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