研究課題
小腸内分泌細胞L細胞は、糖、脂肪酸といった栄養分子に応答しインクレチンと呼ばれる消化管ホルモンを分泌する。インクレチンはインスリン分泌や食欲抑制等抗メタボリック症候群に働く事から、2型糖尿病改善薬の標的分子となっている。インクレチンシグナリングを活性化する非栄養成分は抗メタボリック症候群に働く事が期待され注目を集めている。私は本研究課題で、インクレチンシグナリングに影響を与える脂肪酸受容体GPR120、甘味受容体T1R2/T1R3を活性化する食品成分の探索を試みる。昨年までの研究でGPR120の活性化をTGFα-shedding assayを用いて検出する実験系を構築し、酵母の細胞膜に含まれるスフィンゴ脂質の一つphytosphingosineが新規リガンドになることを報告した。phytosphingosineは摂取後速やかに排出される事が知られ、この事から非栄養生のリガンドではないかと考えられる。酵母を含む発酵食品にはこのphytosphingosineが含まれており、この発見は発酵食品に新たな食品機能を加えるものと期待される。本年度は、T1R2/T1R3安定発現細胞を用いて、天然の糖アルコールの一つフロリドシドが甘味受容体を活性化する事を見出した。甘味受容体はGPCRヘテロ二量体によって形成され、大きな細胞外領域で様々な分子と結合する事が知られている。フロリドシドはガラクトースとグリセロールが一対一で結合した構造とり、紅藻の浸透圧調節に関わる分子と考えられている。私はスサビノリから抽出したフロリドシドが甘味受容体と結合する事を分子レベルで明らかにした。最終年度には、これら新規リガンドの詳細な作用様式を明らかにする予定である。本研究は計画通り順調に遂行中である。
2: おおむね順調に進展している
本年度は2年目で、実験系の確立のみならずそれを使った新規リガンドの探索を行う予定であった。その中で甘味受容体に作用する天然の糖アルコールであるフロリドシドがリガンドになることを見出した。これらの事から判断して、研究は当初の計画通りに順調に遂行できていると考えられる。
これまでの2年間に脂肪酸受容体GPR120と甘味受容体T1R2/T1R3の新規天然リガンドを見出した。今後はこれらに加えて新規リガンドを探索すると共に、見出したリガンドの作用機序を詳細に解明したい。特に甘味受容体T1R2/T1R3は大きな細胞外領域を持ち、リガンド作用部位が複数存在する。採用部位と作用機序の詳細な解明により、構造活性相関の一助になることも考えられる。
本年度は学会発表を控えたので、その分の繰越が生じた。次年度は最終年度であり、これらの繰越を有効に活用し成果発表したいと考えている。
すべて 2018
すべて 雑誌論文 (3件) (うち査読あり 3件、 オープンアクセス 1件)
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10.1111/jfbc.12624
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