研究課題/領域番号 |
17K07801
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研究機関 | 日本大学 |
研究代表者 |
高橋 恭子 日本大学, 生物資源科学部, 准教授 (70366574)
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研究分担者 |
細野 朗 日本大学, 生物資源科学部, 教授 (70328706)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 非コードRNA |
研究実績の概要 |
食品を消化・吸収する腸管の粘膜面は、単層の腸管上皮細胞(IEC)で覆われ、管腔に生息する莫大な数の共生細菌からの刺激を常に受けている。本研究では、非コードRNA(ncRNA)によるIECの機能制御とその機構、さらに腸内共生系の成立・維持における役割を明らかにすることを目的とした。 これまでに、IECに発現する短鎖非コードRNA(miRNA)のうちmiR-21-5pが腸内共生細菌により誘導され、低分子量GTPアーゼARF4を介して上皮透過性を亢進させることを見出している。この分子機構について解析を行い、以下のことを明らかにした。miR-21-5pはPTENおよびPDCD4遺伝子を標的としてその発現を抑制することにより、ARF4の発現を増強し、タイトジャンクション関連タンパク質の発現を抑制することを示した。また、マウス腸管組織においてARF4が腸管上皮に発現すること、さらに、大腸上皮細胞における発現が無菌マウスでは通常マウスに比べて有意に低いことが確認された。したがって、大腸上皮におけるARF4の発現が腸内細菌により誘導されることが明らかになった。 通常および無菌マウスの大腸IECにおけるRNA発現の次世代シーケンスによる網羅的解析の結果、無菌マウスに比べて通常マウスの大腸IECで顕著に発現が高い長鎖非コードRNA(lncRNA)が存在することが明らかになった。一方、これまでに、IECにおいて腸内細菌に対する過剰応答を抑制する1つの機構として、菌体成分を認識する受容体TLR4のDNAメチル化による発現抑制を報告し、大腸IECにおけるTLR4遺伝子のメチル化が腸内細菌により誘導されることを示している。TLR4遺伝子高メチル化IEC株と低メチル化IEC株を用いた解析の結果、DNAメチル化酵素をTLR4遺伝子に特異的にリクルートする候補因子としてRNA結合タンパク質を同定した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
短鎖ncRNAによるIECの機能調節について、腸内細菌依存的なmiRNAによる上皮透過性の調節の分子機構を明らかにした。また、この上皮透過性の調節において鍵となる役割を果たすARF4について、腸管組織における発現分布とその腸内細菌依存性を解析することができた。一方、長鎖ncRNAによるIECの機能調節については、通常マウスで無菌マウスよりも顕著に発現の高いlncRNAを同定することができたが、その機能の詳細な解析までには至らなかった。以上、計画の一部を来年度に継続して持ち越しとなったが、おおむね計画に沿って研究を遂行することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度までに同定したncRNAに加え、小腸に比べて圧倒的多数の腸内細菌が存在する大腸のIECにおいて小腸IECよりも顕著に発現が高いmiRNAにも着目し、これらのncRNAおよび標的分子の機能解析を行う。IEC株へのsiRNA実験等によるin vitroの解析に加え、マウスの腸炎モデルを用いたin vivoの解析により、腸管における炎症、共生における役割を明らかにする。また、腸内細菌に依存的なncRNAについて腸内細菌叢の変化による発現の変化を解析し、その発現を誘導する腸内細菌を特定する。さらに、機能が確認されたncRNAおよびそれらの標的分子について、食品因子による腸内共生系の制御のためのターゲットとしての有用性を評価する。
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次年度使用額が生じた理由 |
lncRNAの機能解析が途中になり、平成30年度に続けて実験を行うため、平成29年度の予算の一部が繰り越しとなった。次年度の研究費は、実験用試薬(培地・培地添加物等の細胞培養用試薬、トランスフェクション試薬・定量PCR試薬・ウェスタンブロッティング試薬・抗体・酵素等の分子生物学および生化学実験試薬など)、実験用動物(マウス)、実験用消耗器具(細胞培養用フラスコ・細胞培養用プレート・プラスティックディスポーザブルチューブなど)の購入代として使用する計画である。
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