研究課題
米ぬかには不飽和ビタミンEトコトリエノールやフェルラ酸などの機能性成分が多く含まれている。我々はトコトリエノールによるテロメラーゼ阻害を発見し、癌に対するトコトリエノールの有用性を明らかにしてきた。また、米ぬか成分の新規機能性を調べる過程で、トコトリエノールの癌細胞増殖抑制作用をフェルラ酸が相乗的に高めることを世界で初めて報告した。そこで平成29年度では、フェルラ酸による相乗効果の機構解明を検討することで、米ぬか成分の高い抗癌活性を実証し、“米成分による癌抑制”の実現に挑むことを目的とした。相乗的な細胞増殖抑制作用は、フェルラ酸処理によるトコトリエノールの細胞内濃度の増大に起因することを明らかにした。この濃度上昇の機構には、フェルラ酸によるビタミンE代謝酵素CYP4F2の阻害が関与すると考えたため、CRISPER/CAS9を活用してCYP4F2をノックダウンした際のフェルラ酸の影響を調べた。CYP4F2のノックダウン細胞ではトコトリエノールとフェルラ酸の相乗作用が減弱したことから、フェルラ酸はCYP4F2を介して相乗的な増殖抑制効果を発揮することが示唆された。また、トコトリエノールの異性体に着目した結果、δ-トコトリエノールのみならず、β-トコトリエノールやγ-トコトリエノールでも同様にフェルラ酸と相乗効果を示すことを見出した。以上の結果から、トコトリエノールとフェルラ酸の癌細胞に対する有用性と、相乗効果を発揮する分子機構の一端を明らかにした。
2: おおむね順調に進展している
トコトリエノールとフェルラ酸による相乗効果の機構の一端を解明したため、順調に研究が進んでいる。
平成30年度では、(1)トコトリエノールの機能を向上させるフェルラ酸類縁体を探索し、(2)トコトリエノールとフェルラ酸による相乗的なテロメラーゼ抑制作用を明らかにする。(1)の実験としては、フェルラ酸がフェニルプロパノイド骨格を有する化合物であることに着目し、この骨格をもつ種々の類縁体を使用してスクリーニングを行う。予備的データであるが、申請者は3種の類縁体(コーヒー酸、クマル酸、ケイ皮酸)を膵臓癌細胞PANC-1に処理してMTT法で評価した結果、いずれの類縁体もトコトリエノールの細胞増殖抑制効果を増強させることを見出した。なお、これらの類縁体を単独で処理(20 μM)しても細胞の増殖には影響がなかった。天然には多くのフェニルプロパノイド化合物が存在するため、これら以外の入手可能な化合物を用いて同様の試験を実施し、構造活性相関を調べる。これにより、高い活性をもつフェニルプロパノイド化合物を3種類程度見出す。さらに、フェルラ酸はトコトリエノールの細胞増殖抑制作用だけでなく、その他の生物活性にも相乗効果を発揮するかを検討するため、(2)の実験についても平成30年度に実施する。本研究は、予備試験として既に良好なデータを得ており、トコトリエノールのテロメラーゼ阻害作用にフェルラ酸が相乗効果を発揮することを示している。これと同様の相乗効果が種々の癌細胞においても観察されるかを検証する。さらに、上記(2)の試験から得られた効果の高いフェルラ酸の類縁体を使って、テロメラーゼに対する相乗作用を調べる。
当初の予想通りの研究成果が得られて順調に研究が進んだため10万円程度の残額が発生した。次年度の細胞実験で必要な消耗品(Q-PCR酵素や抗体)に使用する予定である。
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