タンパク質や多糖といった天然高分子から作製できる微粒子は,食品栄養素や機能性物質を体内へ適切に送達・放出するカプセルとして利用できる。様々な特 性を有するカプセル微粒子を設計するにあたり,微粒子の特性を制御できることが求められるが,そのためには粒子のナノ構造の制御が重要である。微粒子の構 造や特性制御と関わる種々の技術の中で,本研究では特に凍結を利用した手法に着目し研究を進めてきた。平成29年度,平成30年度,令和元年度とかけて,カゼインナトリウ ムと卵タンパク質にターゲットを絞り,凍結に伴って進行する凝集の過程を詳細に検討し,それに伴って生起する物性の変化について検討してきた。特に,凝集体の観察手法としてTunable Resistive Pulse Sensing (TRPS)法を用いることにより,凍結に伴う凝集の進行が,溶液から凍結する過程で起こる比較的急速な 変化(凝集体サイズの変化,凝集物密度の変化)と,凍結環境下で進行する緩慢な変化とに分けて考えられることが分かってきた。また,これらの変化は凝集体 の表面特性とも関わっていることを示すデータも得られた。令和元年度の研究では,凍結に伴う凝集をマイクロカプセルとしての利用可能性を検討した。まず,卵タンパク質によって乳酸菌を内包させた凝集体作製を試みた。前年度までに検討してきた凍結による凝集体形成を進行させることによって,内包させた乳酸菌のバイアビリティを向上させられる成果が得られた。この効果が顕著に表れるのは,卵黄を用いた場合であることも明らかになった。また,放射光X線を用いた小角X線散乱(SAXS)によるナノ構造解析も実施し,凍結による凝集体形成に関わる構造のおおよそのサイズを特定することができた。
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