研究課題
本研究では、脂溶性抗酸化活性物質の評価装置として有機溶媒を使用した流通型ESRを新規に開発した。この装置は酢酸エチルをキャリア溶液とするLFI-ESR(lipophilic flow-injection ESR)システムである。LFI-ESR装置はHPLCポンプから供給するアゾ系ラジカル開始剤(AMVN)を酸素共存下、70℃で熱分解して生成するアルコキシルラジカル(RO・)をスピントラッピング試薬(DMPO)で補足してESR検出する。この流通系に抗酸化活性物質(AoxH)が共存すると、RO・ラジカルに対してDMPOと競争的に反応する。LFI-ESR法ではDMPO/OR濃度の減衰率を定量的に解析して、その濃度が50%に減衰するAoxHの濃度をID50値として計測する。現時点でDMPOとRO・ラジカルの2次反応速度定数が不明なため、基準物質としてアルファ-トコフェロール水溶性モデル物質(TRX)を選択し、そのID50値(TRXID50)と各種AoxHのID50 値の比率をL-AREC(lipophilic alkoxyl radical elimination capacity)値として数値化した。LFI-ESR装置の信頼性とL-AREC値の有効性を評価するために、代表的な脂溶性抗酸化活性物質であるビタミンE誘導体、ビタミンEモデル物質、不飽和脂肪酸および合成抗酸化物質(BHT)のL-AREC値を系統的に評価した。これらのAoxHとフェノキシラジカル(ArO・)の2次反応速度定数は分光学測定によって明らかにされている。そこで、L-AREC法と同様にTRXの速度定数を基準として各種AoxHの速度定数との比率を求めたところ、L-AREC値とのプロットには原点を通過する良好な直線性が認められ、L-AREC法は流通型ESR法による新規の脂溶性抗酸化活性評価法としての有用性が示された。
2: おおむね順調に進展している
本研究では、青果物に含まれる水溶性および脂溶性抗酸化活性物質の探索と機能評価を目的とする新規の流通型ESR分析法の開発と解析法の確立である。これまでに、青果物に含まれる水溶性成分のアルコキシルラジカル(RO・)消去活性を評価するために流通型ESR装置(FI-ESR)を開発し、水溶性アルファトコフェノール(TRX)を基準物質とするH-AREC評価法(hydrophilic alkoxyl radical elimination capacity)を構築した。系統的に解析した各種水溶性フェノール誘導体のH-AREC値は、それらの酸化電位と負の相関性を有することを見いだした。H-ARECの発展型として脂溶性溶媒に可溶な抗酸化物質のRO・消去活性評価装置として脂溶性流通型ESR(lipophilic flow-injection ESR)を開発した。H-AREC法と同様にTRXを基準物質として評価したトコフェロールおよび不飽和脂質のL-AREC(lipophilic alkoxyl radical elimination capacity)値はアロキシルラジカル(ArO・)の反応速度定数と良好な相関性を示した。これらの研究成果によって、流通型ESR法が水溶性から脂溶性に至る広範な青果物含有成分の抗酸化活性の数値化に実用が可能であることを支持している。したがって、本研究課題の進捗状況は当所の研究計画の通りに進捗しているので、区分として(2)概ね順調に進展しているとして自己点検結果を評価した。
流通型ESR法を青果物に由来する水溶性および脂溶性抗酸化物質の活性評価に応用するための基礎および応用研究を推進している。これまでに、水溶性および脂溶性成分を対象とする2系統の流通型ESR装置(FI-ESRおよびLFI-ESR)を開発した。今年度は、青果物に由来する水および有機溶媒可溶化成分の抗酸化活性を評価するために、複数の抗酸化活性物質を含む混合系試料を対象として、流通型ESR装置の有効性と有用性を検討する。これまでの予備的な研究によって、2種類のフェノール性抗酸化物質(Aox1およびAox2)を含む混合溶液とスーパーオキシドラジカル(SOR)の見かけの2次反応速度定数には加成性が成立することを証明している。この予備的な結果に基づいて、多種のポリフェノール類を含む緑茶を標準試料として、そのSORおよびアルコキシルラジカル(RO・)消去活性を流通型ESR装置によって評価する。さらに、緑茶の抗酸化活性成分を探索するために、既に報告しているHPLC-ESR分析法を応用してカラム溶出成分のSOR消去活性をオンライン評価し、緑茶に含まれる有効成分の分取・帰属および活性の評価を行う。青果物に由来する有機溶媒可溶成分の抗酸化活性評価では、ビタミンE類の含有量が少ないオリーブ油を測定対象として、RO・ラジカル消去活性を系統的に解析する。クロロフィルが抗酸化活性評価法に及ぼす影響を考慮しながらL-AREC値の解析を試みる。さらに、LFI-ESR法で評価した食用油のL-AREC(lipophilic alkoxyl radical elimination capacity)値と不飽和脂肪酸の成分分析結果を比較して脂溶性混合系試料の抗酸化活性評価法を確立する。
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Applied magnetic resonance
巻: 49 ページ: 911-924
https://doi.org/10.1007/s00723-018-1012-3
Bulletin of chemical society Japan
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doi:10.1246/bcsj.20190059