本研究では、腸管免疫調節機能を有する食品成分として、フコイダンをはじめとする海藻由来の硫酸化多糖に着目し、生理機能の発揮に必要な硫酸化糖鎖の構造要因を明確にするため、核磁気共鳴(NMR)装置を用いた識別分析法を新規に確立することを目的とした。また、免疫賦活効果におけるフコイダンの作用機序を細胞および生体レベルで検討した。 硫酸化糖の新規NMR分析法の確立に向けた前年度までの取り組みで、硫酸基と特異的に相互作用する一連のリガンド候補化合物を見いだした。令和元年度は、中性糖共存下で試験を行い、成分混合液における硫酸化糖の識別解析に用いる至適リガンドとしてnicotinamideおよびimidazoleを決定した。また、硫酸化糖とリガンドの混合モル比に応じた化学シフト値の変化動態を検討し、imidazoleを用いた本NMR分析法によって糖鎖中の硫酸基含量の推定が可能であることを示した。一方、培養細胞を用いた生理機能解析では、フコイダンとβ-グルカンが細胞膜受容体を介した協調刺激によってマクロファージの活性化を誘導する作用機序を解明した。さらに、動物試験の結果、生体内でフコイダンが直接作用し得る腸管免疫細胞群を明らかにすると共に、腸内細菌叢を改変する作用を持つことを立証した。 以上のことから本研究では、1H-NMRおよびdiffusion-ordered spectroscopy (DOSY) 測定値の変化を指標として、硫酸化糖と特異的に相互作用する一連のリガンド化合物を見いだし、硫酸化糖および硫酸基の非破壊的な識別および定量分析法の開発に資するligand-aided NMR assay法を構築した。また、フコイダンによる細胞膜受容体を介した免疫細胞活性化の機序を解明し、腸管免疫細胞への直接作用や腸内環境の改善を介して抗腫瘍免疫の増強やがん性血管新生の抑制に寄与する可能性を示した。
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