研究課題/領域番号 |
17K07824
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研究機関 | 東京都市大学 |
研究代表者 |
黒岩 崇 東京都市大学, 工学部, 准教授 (60425551)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 食品工学 / 食品コロイド / 乳化・分散 / 高分子電解質 / 安定性 |
研究実績の概要 |
初年度の検討では、ハイドロコロイド食品に対する高分子電解質複合体の効果を検討するにあたり、まず、水溶液中における多糖類やタンパク質と他の食品成分間での高分子電解質複合体の形成挙動について検討した。平成29年度の主な成果は、以下の2点である。 (1)キトサンと脂肪酸による高分子電解質複合体の作製と特性解明 カニやエビなどの外殻を原料として得られるカチオン性の高分子電解質であるキトサンと、動植物油脂由来のアニオン性の長鎖脂肪酸を水溶液中で複合化させ、安定なコロイド分散系を作製することを試みた。キトサン水溶液に、長鎖脂肪酸のエタノール溶液を滴下し混合するだけの極めて簡便な操作で、サブミクロンサイズ(300~800 nm)の平均径を有する安定な分散微粒子を作製できることを見出した。このとき、キトサンと脂肪酸の混合モル比(キトサンのグルコサミン残基に対する脂肪酸の添加モル比)が微粒子の形成挙動および微粒子の特性に顕著な影響を及ぼすことを明らかにした。さらに、蛍光プローブ分子を用いた蛍光スペクトル解析により、微粒子形成に必要な最小の混合モル比(臨界混合モル比)が存在すること、脂肪酸種により臨界混合モル比の値が異なることを示した。 (2)カゼインタンパクを用いたコロイド分散系の作製 本研究において高分子電解質複合体を用いた食品コロイドの安定化条件を明らかにするのに先立ち、効果的な実験系の確立を目指して乳由来の両性ポリイオンであるカゼインタンパクを乳化剤としたエマルションの作製方法を検討した。サイズ均一性の高い液滴の作製が可能なマイクロチャネル乳化法において、油滴形成に及ぼすカゼイン濃度、温度、塩濃度などの諸操作因子の影響を明らかにし、均一径エマルションを作製できる条件を明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究の開始年度として、実験設備の立ち上げと、本研究で検討する様々な実験・解析の手法の確立に関しては、予定通り実施することができた。また、食品に利用可能な高分子電解質を用いた複合体の作製手法や評価用のモデルコロイドの作製条件についても、予備実験の成果も活用して十分確立できたといえる。実験の立ち上げがスムーズに進行したため、キトサンやカゼインタンパクを利用した高分子電解質複合体やモデルコロイド系の形成条件について初年度から有用な知見を得ることができた。さらに、蛍光スペクトル解析、フーリエ変換赤外分光分析、小角X線散乱測定をはじめ、高分子電解質複合体の微細構造や形成メカニズムの評価に必要な機器分析手法についても種々の測定条件、手順を確立することができ、開始1年目として十分な成果が得られていると考え、「概ね順調」と判断した。
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今後の研究の推進方策 |
初年度の検討に続き、2年目以降は、水中油滴型エマルションおよび高分子ミクロゲル分散液をモデルコロイドとして、コロイド粒子の異相界面における高分子電解質複合体の形成とその安定化効果について検討する。これらのコロイド粒子では、食用高分子電解質が油滴表層に吸着した乳化剤およびミクロゲル表層に露出した高分子部位と相互作用して、コロイド粒子界面で高分子電解質複合体を形成すると考えられる。その結果、コロイド粒子の特性が変化し、分散・凝集挙動に影響を及ぼすと予想される。粒径にばらつきのある多分散コロイド系では顕微鏡観察および粒径測定によってこれらの差異を定量的に把握することが難しいが、マイクロチャネル乳化法により作製された単分散エマルションや単分散ミクロゲルを用いることで、コロイドの不安定化要因が凝集によるものか、あるいは合一によるものかといった状況を可視化、定量化できると期待される。この単分散モデルコロイドを用いた検討により、高分子電解質複合体形成の有無および複合化状態が、粒子径、ゼータ電位、保存安定性などの諸因子に及ぼす影響について調査する。
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次年度使用額が生じた理由 |
食用高分子電解質複合体の形成条件および形成メカニズムの解明に向けて、研究開始当初は、高分子電解質の種類と組合せ、濃度、温度、pHなどの諸条件を試行錯誤的・網羅的に検討することを想定し、さらに予定通りに進まない場合の追加条件も勘案して消耗品費を計上していた。これに対し、作業仮説の見通しが良かったこと、および実験装置の工夫による評価作業の効率化等により、試薬類および実験用消耗品の使用が抑えられたため繰越金が発生した。また、モデルコロイドの作製にあたり、現有のマイクロチャネル乳化装置による条件評価において有意義なデータが多く得られたことから、現有装置を用いて当初予定より詳細な乳化条件の検討を実施した。そのため、初年度に計上していた新型マイクロチャネル乳化装置の仕様を見直す必要が生じ、本装置関連の費用20万円程度を次年度に繰り越した。なお、現有装置によるコロイド生産効率が向上したため、以後の実験遂行への影響はなく、研究の大幅な遅れは生じない。 繰越金は、初年度の成果を受けて、マイクロチャネル乳化によるモデルコロイドの生産性をさらに高めるための器具・部品類の購入に充てる。さらに、より効率的な実験の遂行を可能にするため、複数のサンプルを並列的に調製、評価するための消耗品類(ガラス器具、少額の理化学機器等)に充てることを計画している。
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