研究課題
森林における林床植生の消失が生態系の窒素動態メカニズムと樹木の生長、外生菌根菌動態に及ぼす影響を明らかにするために、冷温帯林の代表的な林床植生であるクマイザサを実験的に除去し、その前後で土壌中の無機窒素量と細根動態、樹木の肥大生長量・葉生産量、樹木根と共生した外生菌根菌の量や組成を調べた。ササ除去によりササの窒素吸収量が減少するために、土壌窒素量が増加し、また樹木の生長は促進するだろうと予想した。林床にクマイザサが密生する天然生冷温帯林において、ミズナラを対象木としてプロットを設定し、プロット内の全てのクマイザサ地上部の刈り取り・プロット外への搬出により除去した。また除去の2年後にはプロット外部とのササ地下茎による接続を断つために、プロット周囲の土壌を切断した。ササ除去前から除去後2年間にわたりササ除去区と対照区において各項目を調べた。ササ除去後の土壌の無機窒素量の短期的な変化は小さく、ササ除去から2年経過して初めてササ除去区においてアンモニウム態窒素(NH4-N)が増加する傾向がみられた。ササ細根量はササ除去の2年後にササ除去区で減少する傾向があったもののササ除去の影響は明確ではなく、ササ細根による窒素吸収が維持されていることが示唆された。一方、ミズナラの生長(肥大生長、葉生産量)へのササ除去の正の影響は観測期間を通じてみられなかった。ミズナラ細根中の外生菌根菌はササ除去前後(処理1年後)や処理区に関わらずに優占する種が確認され、短期での菌根菌組成の変化は小さかった。以上のことから、クマイザサは地上部のダメージに対する地下部の抵抗性が非常に高く、短期的には土壌窒素動態や樹木の生長への影響は小さいことが明らかになった。シカなどの動物による食害が林床植生の減少を通じて窒素動態に及ぼす影響が顕在化するには時間を要すると考えられ、より長期的視野に立った観測研究が必要である。
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