研究課題/領域番号 |
17K07834
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研究機関 | 千葉大学 |
研究代表者 |
梅木 清 千葉大学, 大学院園芸学研究科, 准教授 (50376365)
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研究分担者 |
鈴木 智之 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 助教 (20633001)
平尾 聡秀 東京大学, 大学院農学生命科学研究科(農学部), 講師 (90598210)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 生態・生物多様性 / 天然林の更新機構 |
研究実績の概要 |
本研究課題の目的は,これまで見過ごされてきた損傷を受けない状況における萌芽発生に焦点を当て,進化的トレードオフ・環境応答を考慮した森林動態統合シミュレーションモデルを用いて,森林動態におけるこの現象の相対的重要性を解明することである。合わせて,萌芽発生の生理的機構を遺伝子発現の側面から解明することも目的とする。 30年度には,調査対象森林景観である東京大学秩父演習林栃本地区の森林固定調査地(プロットサイズ30m x 30m;60プロット;うち 30プロットは,シカ排除柵で囲まれている)で萌芽動態のモニタリングを継続した。得られた萌芽データと環境データと樹木形質のデータを使用して,樹木形質を考慮した種間比較(系統距離を考慮した重回帰分析)と,萌芽の新規加入・生残率に対する環境条件が与える効果の解析を実行した。また,2017年11月に森林固定調査地周辺で発生した山火事跡地で,2018年6月に森林固定調査地同様の萌芽の調査を行ない,母幹のサイズや火災被害レベルが萌芽本数に与える効果を解析した。 萌芽本数に対して,材密度は負の効果を,全糖濃度は正の効果を与えていた。また,萌芽の新規加入に対して,シカによる食害は負の効果を,母幹幹数は正の効果を与えていた。萌芽の生残率に対して,シカによる食害が負の効果を,母幹の成長が正の効果を,母幹幹数が負の効果を,標高が正の効果を,斜面傾斜が正の効果を与えていた。山火事跡地で優占するイヌブナで,母幹の火災被害レベルが萌芽本数に正の効果を,親個体GBHが正の効果を与えていた。この結果は,非撹乱環境で観察される萌芽発生の状況と比較のために使用することができる。また,前年に行った萌芽本数の種間・種内のパターン解析の結果をまとめた論文を出版した(Umeki et al. 2018 Forests)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
野外におけるデータ取得は計画通り進行している。データ解析も一部完了し,結果を論文として公表した(Umeki et al. 2018 Forests)。萌芽動態と樹木形質との種間の関連の解析も実行できた。ただし,データ解析の進展が若干遅れており,森林動態統合シミュレーションモデルの構築は最終年度の課題となっている。しかし,データ解析に使用する状態空間モデルの構造の検討は終わっており,解析を進行する上で大きな問題はない。また,当初,萌芽発生の生理的機構を遺伝子発現の側面から解析するため実生を野外から圃場に移植する予定であったが,移植に伴うショックが実生生理に予想できない形で影響することを避け,より確実に解析を行うため,解析対象の実生を移植せず,その場で地上部の切断を行うことにした。
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今後の研究の推進方策 |
萌芽・成木・実生の動態データを階層ベイズモデルで解析し,萌芽・成木・実生の動態モデルを統合し,調査対象森林景観内で異なる森林タイプの動態を再現する森林動態統合シミュレーションモデルを構築する。これを使用してシミュレーションを行い,次の3点を明らかにする:1)損傷を受けない状況における萌芽発生がある場合とない場合の森林動態の違いがあるか,2)萌芽動態と成木・実生動態の間に進化的トレードオフがある場合とない場合の森林動態の違いがあるか,3)シミュレーションに与える環境条件(例えば、温度,撹乱頻度,シカによる食害の有無)を仮想的に変化させることにより,将来の環境変動に対応した森林動態の変化とその中における萌芽の役割はなにか。また,ホルモン生合成に関わる遺伝子の発現量測定をする。
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