本研究課題の目的は,これまで見過ごされてきた撹乱を受けない森林における萌芽発生に焦点を当て,進化的トレードオフ・環境応答を考慮し,森林動態におけるこの現象の相対的重要性を解明することである。合わせて,萌芽発生の生理的機構を遺伝子発現の側面から解明することも目的とした。 2019年度には,調査対象森林景観である東京大学秩父演習林栃本地区の森林固定調査地(プロットサイズ30m x 30m;60プロット;うち 30プロットは,シカ排除柵で囲まれている)で萌芽動態のモニタリングを継続した。また,森林固定調査地周辺で2018年12月に皆伐された不成績造林地において,伐採された侵入広葉樹の伐採前後の萌芽の本数を数えた。以上のデータを利用して,萌芽動態に影響を与えている種(形質)・林分・個体レベルの要因は何かを明らかにする解析を行った。また,伐採したミヤマアオダモとウリハダカエデの小径木・実生の萌芽から、4サンプルずつのRNAを抽出して、ポプラで同定されている植物ホルモンの機能遺伝子発現の定量を試みた。 萌芽本数には幹数の正の影響、シカ植食圧とシカ密度の負の影響がみられた。1年間新規加入率にはシカ剥皮痕の正の影響、調査区内BA合計の負の影響がみられたが、3年間新規加入率には有意な影響はみられなかった。シカ植食圧のない防鹿柵内では、葉面積が大きく全糖濃度が高い種ほど、萌芽本数が多くなり、LMAが小さい種ほど、萌芽本数が多く萌芽の新規加入率が高くなった。皆伐前はリョウブやムラサキシキブが、皆伐後はこれらの種に加えオオバアサガラやケヤキが多く萌芽しており、皆伐後の方が萌芽する種が多かった。皆伐前後の萌芽本数には正の相関がみられた。ミヤマアオダモとウリハダカエデから取得したcDNAは,ポプラで開発された機能遺伝子のプライマーを用いたPCRで増幅しなかった。
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