極東アジア産樹木葉枯性病害病原菌の分類に起因する混乱を解決するのみならず、正確かつ迅速な病原菌同定、重要病原菌の分布状況、菌類生物多様性、種分化に関する研究を行い、樹病学、菌学等学術分野への貢献、樹木病害診断に役立つ技術開発による生産・輸出入現場、森林保全への貢献を目的として研究を推進している。本年度は樹木医から鑑定依頼された街路樹の重要病害の病原菌が、新種であることを見いだすとともに、共同で病原性を有することを確認するなど研究成果の社会への貢献にも注力した。また、県内産針葉樹から発酵能を有する新規の酵母を見いだし、共同で国際誌に発表した。さらには海外の共同研究者と協力して熱帯果樹であるマンゴーの炭疽病の主要病原菌が日本と異なることを明らかにするなど植物防疫上の重要な知見を得て国際誌上に発表した。樹木・果樹にも広く病害を引き起こすAlternaria属菌の分類学的研究を進め、これまで種の境界が曖昧であったこれらの種に対して、種概念として、宿主範囲と病原性、分子系統、形態的特徴を導入することを提案し国際誌に発表した。さらには重要な樹木病原菌であるPseudocercospora属のうちDispyros属に寄生する種をドイツ、ブラジル、イランの研究者とともに検討し、これらに多数の新種を見いだすとともに、日本産種と北米および南米との共通種の分子系統関係から日本移民によりカキとともに移入された可能性が高いことを示した。一方、宿主の起源地であるアジア圏には多くの種が分化・存在することを明らかにした。これらの成果は有力国際誌に受理された。本年度は5本の原著論文の他、南西諸島において南根腐病菌によるマンゴーの枯損が生じていることを確認、発生実態調査と防除試験を開始、炭疽病、枝枯病の多様性調査と海外との比較等を実施して、これらの成果を国内、国際学会にて計15件の発表を行った。
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