研究課題/領域番号 |
17K07838
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
鳥丸 猛 三重大学, 生物資源学研究科, 准教授 (10546427)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ブナ林 / 表現型 / 植栽実験 / 遺伝的変異 / エピジェネティック |
研究実績の概要 |
人工気象器を用いた乾燥処理実験に供する材料を収集するために、大山(鳥取県)および白山(福井県)に設置された固定調査区からブナ種子を採取した。大山では、固定調査区内において比較的に周囲のブナ樹冠から孤立しているブナ成木を無作為に5本選定し、それらの樹冠下に落ちているブナの種子を採取した。その結果、一か所あたり平均237.2個(209~302個)の種子を採取できた。水選したところ、一か所あたりの充実種子は採取した種子の81.2~94.0%であった。白山では、固定調査区で種子を多くつけていた成木を無作為に6本選び、種子を採取した。その結果、母樹あたり平均161.8個(88~226個)の種子を採取することができた。水選したところ、母樹あたりの充実種子は採取した種子の34.1~69.1%となり、大山と比較して高いシイナ率であった(大山:4.7~17.5%、白山:29.3~54.0%)。 ブナのゲノム中のエピジェネティック変異を定量化するために、次世代シークエンサーを用いたゲノム中のシトシンのメチル化の程度を網羅的に検出するHELP-tagging法の確立を目的に予備実験を実施した。この予備実験では、ブナ天然林4集団(大山、白山、段戸山(愛知県)、美杉(三重県))から採取されたDNA試料を用いて、複数サンプルを一度に分析する実験手法の確立のため、通常のPCRターゲット配列に個体識別用のバーコード配列を付加したプライマーを開発した。次世代シークエンサーによって塩基配列を読んだ結果、それらのバーコード配列がターゲット領域の増幅産物に正しく付加されていたことが確認された。また、この分析から明らかになった一塩基多型の多様性から集団の過去の動態を推定したところ、3集団(大山、白山、美杉)で過去に集団がボトルネックを受けており、1集団(段戸山)で過去に集団の拡大が起こっていた可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ブナの種子採取については、当初予定していた白神山地の固定調査区で結実がほとんど認められず、代替案である自然状態で生育している当年生実生の採集についても、調査地内でほとんど認められなかった。したがって、本研究計画を遂行して研究期間内に一定の成果を見込むための措置として、研究代表者が管理している他のブナ林の固定調査区である大山(鳥取県)と白山(福井県)の結実を確認したところ、本研究を遂行するために必要な種子を採取可能と判断され、以後、これらのブナ林から採取された種子を生育させて、乾燥処理実験に供するとの判断に至った。種子採取は滞りなく実施され、2018年4月段階では冷蔵庫に種子を保存して発芽処理を行っている。一方、調査地の変更にともない、発芽実生の遺伝的・エピジェネティック変異の背景となるブナ成木集団の遺伝的変異を新たに調査する必要が生じているため、進捗状況としてはややおくれているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
採取された種子については、研究計画に従い発芽させたものを乾燥処理実験に供する予定であるが、水分条件に関する処理数を2処理に減らし、処理間の水分条件の差をより明確にすることで表現形質の処理間差を検出しやすくする計画である。 新たに生じたブナ成木集団の遺伝的変異の調査については、本年度の夏までに葉試料を採取する。採取するブナの幹数は比較的少数(150本程度)であることがあらかじめ判明しているため、年度内にDNA分析を実施し、遺伝データを整理して遅延をばん回することは可能である。また、計画に従い発芽した実生から脱落した子葉を使って実生の親子分析を実施し、実生の表現形質の変異と家系を関連づける予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
ブナのエピジェネティック変異を網羅的に分析する手法であるHELP-tagging法を実施するためにはブナのドラフトゲノムを整備する必要があり、そのための金額を前倒し申請したが、ドラフトゲノムの品質と受託額の選定に時間を要した。そのため、2018年度に納品することとなったため、使用額に差が生じた。すでにブナのドラフトゲノムは発注済みであるため、生じた使用額は確実に執行される計画である。
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