研究実績の概要 |
ブナのエピジェネティク変異を定量化するための手段として、次世代シークエンサーを用いたゲノム中のシトシンのメチル化の程度を網羅的に検出するHELP-tagging法を確立することを目的として、ブナのドラフトゲノムの作成を試みた。三重大学圃場に植栽されているブナから50kbp以上の長鎖DNAを抽出し、10×Chromiumを用いたPhasedゲノムライブラリーの作成とNovaseq6000を用いた150bpペアエンドによるシークエンシングを外部委託した。その結果、総塩基数344,821,524,300bp、リード数2,298,810,162リードであった。さらに外部委託したSupernovaによるアセンブリの結果、アセンブリサイズは341,996,530bp、カバレッジは×44、スキャホールドN50は369,236bp、推定ゲノムサイズは530Mbpであった。 次にブナ集団内で検出される表現形質の変異の遺伝的基盤となるデータを整備するために、研究代表者が管理しているブナ林の固定調査区の一つである白山刈込池周辺のブナ林(福井県大野市)において、ブナ成木の遺伝的構造を調査した。その結果、マイクロサテライトマーカーと次世代シーケンサーを使ったMig-seq法で検出されたSNPにおいて強い遺伝的構造が認められ、ブナの示す風媒・重力種子散布の種特性がその構造化の原因として示唆された。また、ブナにおいて乾燥応答に関わる候補遺伝子であるFcMYB1603も遺伝的構造を示したが、それはブナの種特性から予想される遺伝的変異の空間分布を逸脱するものであった。さらに、FcMYB1603の遺伝子型の空間分布と林床のササの被度の間に有意な相関関係が認められ、ササがあまり被覆していない場所に低頻度の対立遺伝子をもつブナ成木が偏って生育していた。
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