本年度はこれまでの研究期間で行った野外調査の結果をとりまとめた。そのために,これまでに得られた昆虫約5000個体についてデータ解析を行った。 7か所の国立公園において,単木レベルでの枯死木中の炭素量と枯死木に形成された子実体から得られた昆虫の総個体数との関係をみたところ,7か所中6か所の国立公園では,枯死木中の炭素量がある一定の値を上回ると,訪菌性昆虫の個体数が大きく増加する傾向が認められた。ある国立公園での生物多様性管理を考えると,一定サイズの枯死木があることが,多様性維持のために必要であることが示された。ただし,一本の枯死木から得られる昆虫の個体数が大きく増加する枯死木中の炭素量は公園間で異なる傾向がみられ,その差は数十倍程度であった。 8か所の国立公園でトレイル沿いに長さ1m以上,直径10㎝以上の倒木量を記録したところ,最小はTanjung Datu(海岸フタバガキ林)での44本/km,最大はLoagan Bunut(湿地林)での148本/㎞で,残りの国立公園(主に丘陵フタバガキ林)では60本/kmから108本/㎞であった。これまでに採集されたキノコ食昆虫の子実体1個当たりの個体数と倒木量の関係をみると,約100本/kmを頂点とした一山型の関係を示した。 この要因として,湿地林では嫌気的条件となりやすく担子菌類による分解が進みにくく,その結果として枯死木により維持される炭素蓄積は多いものの多様性は低くなる可能性が示唆された。今後,昆虫の種同定を進めたうえで解析を行う必要がある。
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