研究課題/領域番号 |
17K07843
|
研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
松岡 真如 高知大学, 教育研究部自然科学系農学部門, 准教授 (50399325)
|
研究分担者 |
守屋 均 香川大学, 創造工学部, 講師 (50150371)
吉岡 博貴 愛知県立大学, 情報科学部, 教授 (40332944)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
|
キーワード | リモートセンシング / 分散球群 / 三次元構造 / 放射伝達機構 |
研究実績の概要 |
針広混交林や育成複層林など、構造が複雑化する森林を高精度に解析するには、森林における光の伝播過程のより細密な理解が不可欠である。本研究の目的は、複雑な立体構造をもつ森林の放射伝達機構を解明することである。そのために、森林の立体構造を三次元空間に散らばる球群で表現し、空間解像度と観測頻度の異なる衛星で観測した分光反射率を利用した解析を行なう。 令和元年度は、衛星データにおける影の三次元球群を用いた補正方法の開発、写真測量手法による林床植生の生態学的情報の抽出、極軌道衛星と静止軌道衛星を用いた反射率相互比較手法の開発の三点から解析を進めた。 衛星データにおける影の三次元球群を用いた補正方法の開発では、光路追跡手法によってシミュレーションした影の面積率とSentinel-2の観測反射率との直線関係を用いて樹冠による影を補正する手法を開発した。この結果は森林科学に関する国内学会で発表された(学会は中止、要旨のみ公開)。現在、リモートセンシングに関する国内学会での発表を準備するとともに、国際雑誌に投稿するための原稿を作成している。 写真測量手法による林床植生の生態学的情報の抽出では、Structure from Motionによって点群として再現された林床植生の構造から、葉面積や植生被覆率などの生態学的情報の抽出を行った。この結果は国内シンポジウムで発表された。 極軌道衛星と静止軌道衛星を用いた反射率相互比較手法の開発では、Terra/MODISとHimawari-8/AHIの観測反射率を比較する際に、観測の方位角を一致させることによりその差を最小にできることを明らかにした。また、反射率の変換にSoil Isoline Equationを媒介させることで、異なるセンサで観測された植生指数の差をどの程度小さくできるかを定量的に評価した。これら研究はともに国際雑誌(IF:4.1)に掲載された。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
衛星データにおける影の三次元球群を用いた補正方法の開発では、衛星データとして10m分解能のSentinel-2を選び、2019年を中心に20シーンの時系列を処理した。また、地形の傾斜や樹冠構造によって生じる影をシミュレーションし、衛星の観測時刻に合わせて影の状況を再現した。この両者の直線関係に基づいて二つの補正手法(シーン単位の補正・時系列を用いた補正)を構築した。シーン単位の補正には結果に季節による大きな差が存在し、現時点では精度が低い。一方、時系列を用いた手法では、補正後の反射率は年間を通じて妥当な季節変化を示した。影と反射率の関係性の解析において、太陽天頂角をパラメータに含めるか否かの判定に時間を要し、これが予算の次年度使用の主要な原因となった。 写真測量手法による林床植生の生態学的情報の抽出では、再現された林床植生の点群の色に基づいて植生と土壌を分離し、点群の分布や密度を現地調査結果と比較することで葉面積や植生被覆率を算定した。また、写真測量により林床植生の情報を得る上で、撮影条件によって結果に大きな変動が見られたことから、写真の撮影条件(位置や枚数)が情報抽出に及ぼす影響を定量化した。 極軌道衛星と静止軌道衛星を用いた今年度の解析では、過去の研究例が少ない中緯度帯において、両衛星の反射率の相互利用の手法について解析した。その結果、日本を含むアジアの広域でHimawari-8と極軌道衛星とを相補的に利用するための知見が得られた。これにより、炭素循環や地表面温度といった環境要因との解析への展開も期待できる。予算の次年度使用については、これらの点も意識しながら成果の発表に活用する予定である。 令和元年度は、二報の学術論文発表があり、概ね順調にしていると判断した。一方で、国際雑誌論文への投稿のために予算の次年度使用が生じたため、次年度に論文が受理されるよう慎重に準備したい。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度に繰り越した予算は、主に研究の成果発表に使用する予定である。現時点では、国際学術雑誌においてオープンアクセスでの公開を予定している。また、国内学会などで発表を行う予定である。特に、分散球群を用いた影の補正は、他の放射伝達シミュレーションと連携させることで放射伝達理論の実データへの適用を容易にするものである。論文などではその利点を示してゆきたい。 当研究で得られた知見に基づいた研究の展開として、二つの点が挙げられる。一つは広域展開である。当研究では無人航空機による撮影データを用いたStructure from Motionによって森林の三次元モデルを作成した。この手法は、より広域への適用が容易ではない。一方で、航空機搭載型のLiDARは、今回のような詳細なモデルの作成は難しいものの、森林の三次元データを広域に取得することが可能である。そのため、本研究の手法を航空機LiDARに適用することで、市町村程度の広さに適用できるかを検討したい。そのための第一段階として、本研究の手法を航空機LiDARのデータに適用した場合の精度の低下を定量的に評価することを計画している。 二つ目の展開は、Himawari-8/AHIに代表される静止軌道衛星データを用いた高頻度観測データへの適用である。当研究では、時系列データを利用することで反射率の補正精度が担保されることが示された。一般に光学リモートセンシングは影の影響を大きく受けるが、Himawari-8では充分なデータ数を確保することが可能である。この利点を生かし、反射率の日内変動における地形や樹冠の影響をモデル化することを計画している。 当課題の研究者の二名は、挑戦的研究(萌芽)として、仕様の異なる多数の衛星観測データを逆算アルゴリズム等価性に基づいて融合する研究に取り組んでいる。その枠組みを活用しながら、当課題の成果を発展させたいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
国際学術雑誌への投稿論文の作成が遅れたことが主な理由である。衛星データにおける影の三次元球群を用いた補正方法の開発において、シーン単位の補正精度に季節による変動が見られた。特に太陽高度が低く影の多い冬のデータを補正した場合に、大きな外挿による過補正が生じることとなった。そのため、補正パラメータに太陽天頂角を入れることを検討した。これにより、季節的な精度の変動は軽減された。一方で、理論的な整合性が弱まることでより経験的なモデルとなること、また季節変動は日照部の林冠による反射が主な原因であることが示されたため、最終的には太陽天頂角の採用を見送った。また、安定した精度を得るために時系列データによる補正手法を開発したが、補正に年間のデータを使用するため、データの準備に時間を要した。これらの解析に時間を要し論文の作成が遅れた。そのため、査読期間などを考慮して次年度の予算使用を決定した。繰り越した予算は、研究の成果発表として国際学術雑誌におけるオープンアクセスでの発表と、国内学会などにおいて成果発表に使用する予定である。
|