研究課題/領域番号 |
17K07846
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研究機関 | 琉球大学 |
研究代表者 |
谷口 真吾 琉球大学, 農学部, 教授 (80444909)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 樹木繁殖 / 開花結実 / 豊凶周期 / 13C安定同位体 / 繁殖資源 / 種子生産 / 亜熱帯島嶼 / リュウキュウコクタン |
研究実績の概要 |
初年度の2018年度は、種子生産に関わる光合成産物の転流解析と繁殖枝の炭素、窒素の貯蔵量を定量分析した。 2018年は繁殖モジュールの果実数が3.58~3.85粒/繁殖枝であり、並作年の1.8~2.0倍の果実数を生産した小豊作年であった。同年7月20日に2個体の繁殖枝に13C安定同位体を同化させた。この結果、果実成長が終了した果実成熟期であった個体は、無剥皮区+100%摘葉区と剥皮区+50%摘葉区において繁殖枝の葉で同化された13Cの転流が認められた。さらに、果実成長が最大期であった個体は、剥皮区+100%摘葉区のみで繁殖枝の葉で同化された13Cの転流が認められた。摘葉区での繁殖枝の炭素量は無摘葉区よりも微増していることから、摘葉区では枝に貯蔵されたデンプンなどの炭素の利用はないと考えられた。 つぎに、種子生産に利用される炭素の供給源を解明するため、健全なリュウキュウコクタン2個体のシュート伸長、展葉、開花前までの2か月にわたり、工業用液体CO2を用いて高濃度(500~2000ppmの範囲)CO2を日中10時間自然大気下の繁殖枝に付与した(FACE処理区)。サンプリング後に安定同位対比を分析した結果、対照区と比してFACE処理区の果実のみに高い13Cの値が認められた(クラスカル・ウォリス検定 0.05%有意)。すなわち、種子生産に使われた炭素の供給源が区分され、開花結実後の幼果実の種子生産には当年の光合成産物のみが利用されることが判明した。 2018年の小豊作年では、種子生産における炭素の供給源は繁殖枝の葉の同化物であり種子生産にあたっては結実当年に展葉した当年葉の光合成産物が利用されることが示唆された。さらに3月からの展葉、シュート伸長には展葉まもない当年葉で生産された光合成産物は使われず、FACE実験の開始までに枝等に貯蔵されていたデンプンなどの貯蔵炭素が利用されることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
沖縄島嶼、亜熱帯域に分布する琉球列島の在来種である常緑広葉樹リュウキュウコクタンの結実誘導に必要な繁殖資源の閾値を解明し、結実豊凶の発生メカニズムを体系化するために初年度の2018年度は①種子生産に関わる炭水化物の供給源の解明、②種子生産に関わる窒素の供給源の解明、③種子生産に関わる繁殖資源の年貯蔵量の変化と豊作年の誘導に必要な年貯蔵量の閾値の解明の3項目の研究課題を実施した。 進捗状況を「(1)当初の計画以上に進展している。」との自己点検評価にしなかった理由は、①の課題において初年度に実施した高濃度CO2付与実験(FACE処理実験)の高濃度CO2の自然状態での付与のための工業用液体CO2の購入維持と高濃度CO2放出のためのコントローラのレンタル経費が当初予定額よりも大幅に高く、結局2か月強の期間しか高濃度CO2の放出、付与実験が持続できなかった。この原因により1年の通年にわたる高濃度CO2付与実験(FACE処理実験)が維持できなかった。このため、高濃度CO2を付与し続けた繁殖枝の2年目における種子生産に使われる炭素源のより詳細な供給源の区分が不可能となった。 研究2年目の2019年からはFACE実験を断念し、開花結実から幼果実期、果実の成長最大時期、果実成熟期、果実落下期の4区分の繁殖のステージごとに各操作実験区から繁殖モジュールをサンプリングし、時期ごとに果実とそれ以外の繁殖モジュールの器官ごとの炭素、窒素、糖の分析を行って種子生産に必要な繁殖資源の配分量を繁殖ステージごとに推定することにした。 今後、複数年にわたり結実量が異なる年次の繁殖モジュールにおける貯蔵炭水化物量(可溶性糖+デンプン)と貯蔵窒素量の経年値が得られる計画である。さらに、開花、結実、果実生産、成熟に必要な繁殖資源の配分量を繁殖ステージごとに推定し、繁殖資源の配分収支と季節貯蔵量の変化、年貯蔵量を把握する。
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今後の研究の推進方策 |
今後もリュウキュウコクタンの健全個体を供試する。リュウキュウコクタンの開花結実には豊作、並作、凶作の豊凶の年周期があり、開花結実のレベルが最大になる年と結実しない年の調査データを確保する必要性がある。平成29年は小豊作年であった。30年は凶作に近い並作であると推察している。研究期間の4年間、次の3項目の研究課題を同じ研究方法により毎年継続実施し、調査データの年蓄積を重ねる。 1.種子生産に関わる炭水化物の供給源の解明 13C安定同位体の標識実験によって、種子生産の炭素源は「結実当年に生産された比較的新しい光合成産物(炭水化物;可溶性糖+デンプン)」、あるいは「結実年以前に枝に樹体内貯蔵された貯蔵炭水化物(可溶性糖+デンプン)」のどちらかが種子生産に貢献、寄与しているかを解明する。実験方法は、開花結実から種子成熟までの繁殖ステージ別の繁殖器官ごとに、13C安定同位体標識法を用いて測定する。2.種子生産に関わる窒素の供給源の解明 15N安定同位体の標識実験によって、種子生産の窒素源は「根から吸収した窒素」、か「結実年以前に枝に樹体内貯蔵された窒素(貯蔵窒素)」のどちらが種子生産に貢献、寄与しているかを解明する。さらに、茎頂組織の花芽分化と花芽形成を経時的に組織観察する。3.種子生産に関わる繁殖資源の年貯蔵量の変化と豊作年の誘導に必要な年貯蔵量の閾値の解明 定期的に繁殖ステージ別にサンプリングした繁殖器官のシュート長と乾重、葉数、葉サイズと面積を計測し繁殖器官ごとの糖分析、炭素、窒素の定量分析を行う。 以上の3項目の研究課題を4年間実施し、開花結実、果実・種子の生産に必要な繁殖資源の配分量を繁殖ステージごとに推定し、繁殖資源の配分収支と貯蔵炭水化物量(可溶性糖+デンプン)、貯蔵窒素量の経時データを繁殖モジュールごとに集積し、種子生産に関わる繁殖資源の季節貯蔵量、年貯蔵量の変化量を把握する。
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