本研究は、常緑樹における果実生産量の豊作、並作、凶作の違いに影響される繁殖資源の配分特性を解明した。試験期間中の5年間、供試木に環状剥皮区と無剥皮区を設定し開花期の5月上旬から中旬まで期間、摘葉処理(摘葉しない0%摘葉区、葉数の50%摘葉区、葉面積の50%摘葉区、全量の100%摘葉)を行った。受粉・受精後の5月下旬に環状剥皮し計8処理区/個体を設けた。果実の伸長・肥大成長が最大である6月中・下旬に光合成産物の転流を追跡する13Cトレーサー実験を行った。果実の成熟前期の7月上・中旬、成熟中期の7月下旬、成熟後期の8月中・下旬に処理区ごとに繁殖枝を採取し果実、枝、葉の安定同位体13C量、可溶性糖、全炭素、全窒素を定量した。 13Cトレーサー実験の結果、果実数が1.00粒/繁殖枝前後の凶作年では繁殖枝間の13Cの転流は認められなかった。果実数2.50粒/繁殖枝前後の並作年では、豊作年に比すると顕著に低い値であるが繁殖枝間の13Cの転流が認められた。果実数3.50粒/繁殖枝前後の豊作年では例外なく13Cの転流は認められた。この結果、豊・並作年は繁殖当年に展開した葉の光合成産物を果実生産に使い、同時に100%摘葉した同化する葉のない繁殖枝への転流が示唆された。豊・並作年では、可溶性糖のうちグルコース(単糖:ブドウ糖)はすべての枝で検出された。コクタンは7月上旬以降、枝の伸長成長は停止しているのでグルコースは枝の柔組織にデンプン粒などの多糖類に重合し次年枝の繁殖資源として蓄積、貯蔵されたと推察された。フルクトース(単糖:果糖)はすべての果実で検出された。スクロース(二糖:ショ糖)はすべての枝、葉で検出されたが果実では7月上・中・下旬の果実の成熟前・中期には検出されず、8月下旬の果実の成熟後期のみに検出された。全炭素、全窒素は葉、果実では時系列に減少したが、枝では7月中旬に一度増加し8月下旬に減少する傾向であった。
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