研究課題/領域番号 |
17K07849
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研究機関 | 長野大学 |
研究代表者 |
高橋 一秋 長野大学, 環境ツーリズム学部, 教授 (10401184)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ツキノワグマ / マルハナバチ / ガンコウラン / クロマメノキ / 地球温暖化 / 酸素安定同位体 |
研究実績の概要 |
高山植物ガンコウランの種子がツキノワグマと鳥類によって高標高へ散布されているかどうかを種子の酸素安定同位体比を分析することで推定した。浅間山(標高2,568m)の標高1670m~2370mの間に幅100mのプロットを設置し、月に2回、クマの糞を採集した。また、プロット内を標高差100m間隔に区切った9地点に、とまり木付きの種子トラップを2個ずつ設置し、月に2回、鳥類の排泄物中の種子を回収した。また、標高差930mを50m間隔に区切った22地点で、ガンコウランの種子を結実木から直接採取し、種子中の酸素安定同位体比を分析することで、糞中の種子の酸素安定同位体比からその親個体の標高を推定するための検量線を求めた。ガンコウラン種子を含んだクマの糞は13個、鳥類の糞は9個採集された。そこからランダムにクマ糞由来の種子を23個、鳥類由来の種子を13個選び出し、酸素安定同位体比を分析した。その値を検量線(決定係数0.48)に当てはめて、その親個体の標高を推定し、垂直方向の散布距離を算出した。散布距離は鳥類よりクマで長く、クマの場合は高標高に偏って散布されている傾向が認められた。 クロマメノキとコケモモの受粉様式(自家受粉、他家受粉)を把握するために、強制受粉実験を行った。クロマメノキの結実率は、「自然状態」の処理より「強制自家受粉+ネット掛け」「強制他家受粉+ネット掛け」「コントロール(ネット掛け)」の処理で有意に高い値を示した。コケモモの結実率は、他の3つの処理より「強制他家受粉+ネット掛け」の処理で有意に高い値を示した。また、コケモモの充実種子数は、他の3つの処理より「強制他家受粉+ネット掛け」の処理で高い値を示した。クロマメノキとコケモモの受粉様式は、ともに「自家受粉と他家受粉のハイブリット型」ではあるが、クロマメノキよりコケモモのほうが他家受粉に依存した種であることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は浅間山(軽井沢町)をフィールドに、ツツジ科・小低木(主にガンコウランとクロマメノキ)と、その繁殖に関わる花粉媒介者(主にマルハナバチ)と種子散布者(主にツキノワグマ)の3者をめぐる相利共生ネットワークの全貌を解明すると同時に、気温上昇が高山帯の相利共生ネットワークに与える影響を推測し、将来を予測することを目的とする。 (a)「ガンコウラン・クロマメノキの生育状況の把握」研究では、標高の異なる11の地点に1つずつ設置した長期モニタリング調査ポイントで、4樹種(ガンコウラン、クロマメノキ、シラタマノキ、コケモモ)の生育状況と気温・照度を継続的に調査できた。森林限界付近の3つの標高域に設置した調査プロット(2m×50m)で植生調査を実施し、4樹種の分布状況と出現頻度を把握できた。(b)「マルハナバチを中心とする花粉媒介者の特定」研究では、クロマメノキ、シラタマノキ、コケモモの花の形態を分析し、振動受粉に適応した形態を有することが特定できた。強制受粉実験を行ってクロマメノキとコケモモの受粉様式(自家受粉、他家受粉)を把握できた。花に訪れたマルハナバチ類の種類は特定できたが、花粉団子を足につけた個体が少なかったため、花粉分析は実施できなかった。(c)「ツキノワグマを中心とする種子散布者の特定」研究では、各調査ポイントに設置した自動撮影カメラを用いてモニタリング調査を実施し、果実を利用する哺乳類と鳥類を把握できた。踏査による哺乳類の糞の採取と、人工とまり木付き種子トラップを用いた鳥類の糞の採取を実施できた。(d)「ツキノワグマによる種子散布の有効性の把握」研究では、クマと鳥類の糞から検出された種子の酸素安定同位体比を分析し、動物が種子を運んだ標高差を推定できた。(e)「相利共生ネットワークの全貌把握」研究と(f)「変容シナリオの構築」研究では、調査を通じて有効な情報が得られた。
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今後の研究の推進方策 |
(a)「ガンコウラン・クロマメノキの生育状況の把握」研究では、森林限界付近の標高から4種種の分布がみられなくなる標高までの間に、調査プロット(2m×50m)を標高差100m間隔で設置し、植生調査を実施することで、4樹種(ガンコウラン、クロマメノキ、シラタマノキ、コケモモ)の分布状況、出現頻度、気温上昇が原因とみられる枯れの状況を把握する。(b)「マルハナバチを中心とする花粉媒介者の特定」研究では、マルハナバチ類の足についている花粉団子の分析、強制受粉実験による受粉様式の把握などを実施し、有効な花粉媒介者を特定する。(c)「ツキノワグマを中心とする種子散布者の特定」研究では、自動撮影カメラを用いたモニタリング調査を継続し、3年間のデータから、果実を利用する哺乳類と鳥類の全体像を把握する。(d)「ツキノワグマによる種子散布の有効性の把握」研究では、哺乳類(ツキノワグマ、キツネ、ノウサギ)と鳥類の糞から検出された種子の酸素安定同位体比から、動物が種子を運んだ標高差を推定する分析方法を用いて、ガンコウランの種子の垂直散布距離を推定する。また、それらの推定値を動物種間で比較することで、垂直種子散布に果たす各動物種の貢献度を把握する。(e)「相利共生ネットワークの全貌把握」研究と(f)「変容シナリオの構築」研究では、(a)~(d)の調査から得られたデータをもとに、相利共生ネットワークの全貌を把握するとともに、気温上昇が進行した場合の変容シナリオを構築する。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由)購入を予定していた参考図書が品切れだったのと、論文複写の費用が予想より安価で済んだことが理由である。 使用計画)参考図書の購入費と論文複写の費用として使用する予定である。
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