気候変動にともなって生物集団の地理的分布も変化すると考えられる。日本列島の自然生態系において重要な要素である樹木は永年生であることから分布域の変化が気候変動の速さに追いつかない可能性も指摘されている。本研究の結果、北方へ分布拡大を行なっているブナの北進最前線集団は、少数個体が約12-16km離れた新たな生育地に定着し、その後近隣の北限集団から花粉流動や種子散布が繰り返されて遺伝的多様性が蓄積されつつあることが明らかになった。樹木集団が北進を続けるための遺伝子多様性の蓄積は繁殖によって世代を重ねることが重要で、本研究により十数キロ以内がブナの遺伝子流動が可能な範囲の指標の一つとして示された。
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