2017 年度実施状況報告書

変動する気象要因はいかにしてマツ材線虫病の流行過程に影響するのか

研究課題

研究課題/領域番号	17K07855
研究機関	国立研究開発法人森林研究・整備機構
研究代表者	中村克典国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員等 (40343785)
研究期間 (年度)	2017-04-01 – 2020-03-31
キーワード	マツ材線虫病 / 流行過程 / 環境要因 / 宿主感受性
研究実績の概要	マツ材線虫病の流行過程において、気象条件などの環境要因は宿主であるマツの病気への感受性を介して流行の拡大や終息に関わっていると考えられる。本研究ではマツの病気への感受性に加えて病原体マツノザイセンチュウの毒性および媒介者マツノマダラカミキリの密度の年次変動を計測することで、マツ材線虫病の流行パタンにおける各要因の寄与程度を定量的に評価する。この目的を達するため、前継課題で設定した岩手県北上市稲瀬のマツ枯損動態調査区での罹病木発生モニタリング、近傍の苗畑に毎年植栽するアカマツ苗木へのセンチュウ人工接種による宿主感受性の年次変動の測定、ならびに調査区マツ林における媒介昆虫の発生数調査を行う。また、林内に蔓延するセンチュウの毒性の年次変動を評価するため、調査区マツ林に発生したマツ枯死木および媒介昆虫からのセンチュウの分離・培養をすすめる。調査区マツ林での本年夏および秋の調査で確認（ないし推定）された罹病枯死木数はそれぞれ５本および１本であった。これを含む前継課題からの継続調査により調査区マツ林での2014年～2016年の感染による罹病木数はそれぞれ８本、６本、６本と推定された。一方、枯死木の精査により特定した2016年夏の調査区マツ林におけるカミキリ成虫発生数は８頭で、2015年の49頭から大きく減少した。すなわち、罹病木の動態は媒介昆虫密度を直接には反映していない。苗畑でのセンチュウ人工接種によるアカマツ苗の枯損率は53％（2017年11月時点）で、前継課題での接種実験での2～10％より明らかに高かった。2017年夏～秋の気象条件はマツの病気への感受性を高くしていた可能性があるが、気象条件がマツの感受性に及ぼす影響を明らかにするには今後の経年的なデータの蓄積が必要である。
現在までの達成度 (区分)	現在までの達成度 (区分) 2: おおむね順調に進展している理由本研究は挑戦的萌芽研究「宿主感受性の時間的変動がマツ材線虫病の流行パタンに及ぼす影響」（平成26～28年度）を受け、ここで確立した手法を適用することでマツ材線虫病の流行過程に関わる各種パラメータの寄与程度を定量しようとするものである。このため、マツ枯損動態モニタリングや苗畑接種実験で使用する調査地や手法は確定しており、研究は初年度から順調に経過している。調査区マツ林周辺での罹病枯死木の変動により現地産マツノマダラカミキリ成虫の捕獲が不調のため成虫からのマツノザイセンチュウ分離ができていないが、被害木からの分離線虫があれば研究目的の達成に支障はない。
今後の研究の推進方策	予定通り研究をすすめる。調査区マツ林での罹病木発生数モニタリングと媒介昆虫発生調査、マツノザイセンチュウの分離・培養、および宿主感受性把握のためのマツノザイセンチュウ接種試験を着実に実施し、３年目の各種要因の寄与程度の定量に向けデータを蓄積する。また、調査区マツ林に発生する罹病枯死木、およびそこから脱出するマツノマダラカミキリ成虫からのマツノザイセンチュウの収集、培養をすすめる。
次年度使用額が生じた理由	（理由）接種実験に際し、他の研究での培養線虫の余剰分を利用できたこと、マツノマダラカミキリ成虫の捕獲が不調で分離線虫を得られなかったことなどにより、線虫培養に係る資材や人件費が当初予定を下回ったため。（使用計画）パラメータの寄与程度定量に向けた流行モデル構築のための情報収集、打合せのための旅費に充てる。