マツ材線虫病の流行過程において、気象条件などの環境要因は宿主であるマツの病気への感受性を介して流行の拡大や終息に関わっていると考えられていた。本研究ではマツの病気への感受性に加えて病原体マツノザイセンチュウの毒性および媒介者マツノマダラカミキリの密度の年次変動を計測することで、マツ材線虫病の流行パタンにおける各要因の寄与程度を定量的に評価しようとした。この目的を達するため、岩手県北上市稲瀬のマツ枯損動態調査区での罹病木発生モニタリング、近傍の苗畑に毎年植栽するアカマツ苗木へのセンチュウ人工接種による宿主感受性の年次変動の測定、ならびに調査区マツ林における媒介昆虫の発生数調査を行った。また、調査区マツ林に発生したマツ枯死木に由来するマツノザイセンチュウ培養株をアカマツ苗木に接種することにより、センチュウの毒性の年次変動を評価した。、 前継課題からの調査期間を通じ、調査区マツ林で発生した罹病枯死木数は3~7本/年と一貫して少なく、減少傾向にあった。また、枯死木の精査により特定した2015年~2018年夏の調査区マツ林におけるカミキリ成虫発生数は49頭、8頭、1頭、1頭と急激な減衰を示した。苗畑でのセンチュウ人工接種によるアカマツ苗の枯損率は年次間で18~22.5%(5千頭接種区)と変動し、これは年ごとの気象条件に応じた宿主感受性の変動を反映するものと考えられたが、その変動と調査区マツ林での罹病枯死木数の動態の間に明確な関連性は見られなかった。また、調査区マツ林の枯死木から分離した線虫の毒性の変動に一定の傾向は確認されなかった。以上から、調査区マツ林で見られた罹病・枯死木数の変動は宿主感受性、媒介者密度、病原体の毒性といったパラメータの年次ごとの変動を反映するのではなく、大きな流行イベントの数年にわたる後遺的な効果から説明されるものと考えられた。
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