カシワは、北日本の海岸に自生する広葉樹で、耐塩性が高い枝の形質を持つ。北海道にあるカシワの北限より北では、この耐塩性形質を示すミズナラが生育する。この現象は、耐塩性形質をもたらす遺伝子がカシワからミズナラへ交雑によって浸透し、海岸林で耐塩性の高いミズナラが自然選択された適応的浸透によると考えられる。そこで、この仮説を検証するため、1)カシワとミズナラとの種間雑種F1同士の交配から得られるF2を用いて耐塩性形質の遺伝的変異を明らかにし、2)それらのF2を海岸林へ植栽してその遺伝的変異が適応的であることを示し、3)カシワの北限より北に自生する耐塩性形質を示すミズナラがその遺伝的変異を持つことを確かめる。 三笠親M、江別親E、江別種子親Esの3個体のF1を交配し、2つのF2家系を作成した。それらは、MとEを相互交配したM x E、Mの花粉をEsへ交配したM x Esである。2022年春までに、M x Eの37個体とM x Esの26個体を圃場に植栽した。予想よりも死亡率が高く、雑種崩壊が示唆される。今後、これらのF2家系を補充・育成し量的遺伝子座(QTL)解析に用いる予定である。 海岸のカシワおよび海岸と内陸のミズナラが植栽された試験地を、北海道北部の海岸と内陸に確保した。これらの植栽個体について、約2万座位の遺伝子型を特定し、耐塩性にかかわる7形質と成長量を測定した。これらのデータを用いて、耐塩性形質のカシワ表現型の海岸での高い成長量と耐塩性形質に関連する座位のカシワ対立遺伝子の浸透を解析した。
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