研究課題/領域番号 |
17K07863
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
福田 陽子 (後藤陽子) 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所 林木育種センター, 主任研究員 等 (00370825)
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研究分担者 |
渡邊 陽子 北海道大学, 農学研究院, 研究員 (30532452)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | カラマツ / グイマツ / 雑種強勢 / フェノロジー / 遺伝子発現 / 材形成 |
研究実績の概要 |
平成29年度に行った開葉調査について生存時間分析による開葉個体率の推定を行った結果、50%以上の個体が開葉した日はグイマツでは4/21、ハイブリッドカラマツは4/27、カラマツは5/1であり、グイマツと比較してハイブリッドカラマツでは6日、カラマツでは10日程度遅かった。また、ハイブリッドカラマツでは家系間および家系内での開葉日の変異が大きかった。 クロロフィル量(葉絶乾重量あたりのクロロフィル量)の季節変動においては、平成29年度には樹高15m以上の個体から試料を採取した結果、採取部位に起因すると考えられるバラツキが大きかったため、平成30年度は試料採取が容易な樹高7-10mの個体を選び、カラマツ3クローン、グイマツ3クローン、ハイブリッドカラマツ「北のパイオニア1号」について、日当たりが良い一定の高さの部位から3本ずつ、2年生枝を採取して供試した。状態空間モデルを使用したクロロフィル量の推定を試みた結果、開葉から黄葉を開始するまでの期間におけるクロロフィル量の変化が平滑化され、季節変化を明瞭化できた。カラマツ、グイマツ、ハイブリッドカラマツいずれもクロロフィル量は7月上旬にピークとなり、黄葉はグイマツで最も早く、9月下旬から10月上旬に黄葉を開始した。カラマツ、ハイブリッドカラマツではグイマツより1ヶ月から2週間遅く、10月下旬に黄葉を開始した。グイマツのうち、「北のパイオニア1号」の母樹「留萌1号」は他の2クローンと比較して黄葉が遅い傾向が見出された。 平成29年度に採取した木部組織の顕微鏡観察を進めた結果、留萌1号、北のパイオニア1号では諏訪14号と比較して形成層活動が早く開始し、遅く終了することが示唆された。平成30年度はハイブリッドカラマツ3家系の1家系あたり3個体、さらにその両親であるカラマツ3クローン、グイマツ3クローンより試料を採取した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、平成29年度にクロロフィル量の測定を行った試料を用いて平成30年度中に遺伝子発現解析を行う予定であったが、クロロフィル量の測定結果から採取部位によるフェノロジーの違いが生じる可能性が考えられたこと、研究対象とした個体に虫害が発生したために開葉が遅れた可能性が考えられたことから、平成30年度に同一クローンの試料採取がより容易な個体を対象にクロロフィル量の測定および遺伝子発現解析用の試料採取を行った。このため、遺伝子発現解析は平成30年度に採取した試料を用い、令和元年度に行うことに変更した。すでにRNA抽出は終了しており、計画どおり令和元年度中に遺伝子発現におけるフェノロジーの差異による雑種強勢プロセスの検討まで進めることができると考えている。 材形成フェノロジーにおける種間変異および雑種特性を解明するため、現在平成30年度に採取した試料の観察を進めている。従来は詳細な形成層活動を観察するために、試料を細切し樹脂包埋を行うなど、細かい作業が多く時間がかかった。しかしながら、今年度は織部らの方法(2018)を参考に、採取試料から光学顕微鏡観察用のプレパラート作成のための、より簡便な実験方法を確立した(織部ら(2018)第68回日本木材学会研究発表要旨集, A15-P45」)。この方法を用いることにより、今後は採取試料の観察を効率的に進めることが可能となった。
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今後の研究の推進方策 |
平成30年度にクロロフィル量を測定した試料から、同時に遺伝子発現解析用の試料を採取しており、これらの試料を用いて令和元年度にRNA-seqによる遺伝子発現解析を行う。木部組織についても、平成30年度に採取した試料の顕微鏡観察を進め、形成層活動の種内および種間変異について検討するとともに、H29年度に採取した試料を用いて遺伝子発現解析を行う。この結果に基づき、グイマツ雑種F1、カラマツ、グイマツの遺伝子発現の季節変動を比較し、雑種強勢プロセスを検討する。 平成30年9月の台風により、ハイブリッドカラマツが植栽されていた北海道育種場内のカラマツ属交雑試験地のほぼ全個体が風倒被害にあったため、令和元年度はハイブリッドカラマツの試料採取の継続が不可能となった。このため、カラマツおよびグイマツのみについて試料採取を行い、葉および材形成フェノロジーの観察を行う予定である。フェノロジーの年変動の可能性を考え、3年間の継続調査を予定していたが、平成29年度、平成30年度の調査結果では種および雑種特性に顕著な年次変動は見出されていないことから、計画の変更が本研究の目的の達成に与える影響はないと考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
平成30年度に実施する予定であった遺伝子発現解析を令和元年度の実施に変更したため、次年度使用額が生じた。また、簡易な光学顕微鏡観察用のプレパラート作成法が確立できたことから、令和元年度には平成30年度中にプレパラート作成に着手できなかった試料も含め、観察を進める予定である。このため、RNA-seqによる遺伝子発現解析およびプレパラート作成に平成30年度より繰越す助成金を使用する予定である。
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