ヒノキ、サワラの未熟な種子胚を培養し、不定胚形成能力を持つ増殖細胞塊を誘導した。得られた細胞塊を不定胚成熟用培地に移して不定胚を大量に形成させた後、発芽用培地に移すことで植物体を得ることができた。さらにサワラについて、培養中に細胞塊から遊離する単一の細胞(シングルセル)を1つずつマニピュレーターで分離して単独で培養することにより、植物体を再分化させることができた。従来の遺伝子改変技術では、改変処理後に複数の異なる遺伝子組成の細胞が混在(キメラ化)することになるため、薬剤による選抜をかけることが多いが、ただ一つの遺伝子改変細胞由来の植物個体を得ることは容易でない。ゲノム編集などの遺伝子改変を行う際、シングルセルを利用した植物体再分化系を利用すれば、キメラ化を避けて個体を再生させることが可能となるため、時間と労力を要する選抜のプロセスを経ることなく速やかに目的個体を得ることができる。 また、親木と同一の遺伝子組成を持つ植物体の再分化系開発を行うために、ヒノキ科植物のヒノキ、サワラ、ヒノキアスナロ、アスナロの成葉組織を用いて植物体の再生実験を行った。各樹種の葉条切片を培養し、切片上に芽の原基を多数形成させ、多芽体を誘導した。多芽を伸長させ、発根培地へ移すことで植物体を形成させることができた。現在までのところ、スギではこのようなクローン増殖法は確立されていないが、今回多数のヒノキ科樹木で可能であることを示せた。アスナロについて、多芽体切片を細断し、液体培地で振盪培養することで単一の細胞を多数遊離させることができた。将来、得られた単一細胞から植物体を再分化させることができれば、選抜個体(親木)から、キメラ化を経ることなく遺伝子改変した植物体を得ることが可能となる。
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