針葉樹人工林伐採後の散布種子(新規移入種子)による更新の可能性を明らかにするため、発達した照葉樹二次林に隣接するスギ人工林の伐採前から伐採後14年間のモニタリングを行った。伐採前の下層植生(前生樹)に及ぼす隣接照葉樹林の影響は林縁から20~30m程度であり、これらの範囲では前生稚樹が豊富で、伐採後の再生が早まると考えられた。伐採から14年経過後には、埋土種子から発生したアカメガシワやカラスザンショウなどの先駆性木本種は顕著に減少していたが、前生稚樹由来の更新個体の多くは生き残っており、前生稚樹が豊富な範囲では早急に照葉樹林構成種が更新すると考えられた。伐採後に散布種子によって更新する個体は、伐採から5年後までは林縁から20mの範囲内でのみみられたが、伐採14年後には比較的広範囲まで更新が確認できた。しかしながら、散布種子由来の更新個体の多くは、ヒメユズリハやタブノキなどの鳥散布型の樹種であり、シイ・カシ類の重力散布型の樹種はほとんど更新していなかった。つまり、シイ・カシ類の重力散布型の樹木の更新は、前生樹として維持されていなければ、更新は難しいと考えられた。また、針葉樹人工林伐採後の前生稚樹の影響を明らかにするため、前生稚樹由来の更新個体数の変化を観察した。更新個体の枯死率はサイズによって異なっており、伐採前に樹高2m以下の個体で枯死率が40~50%と高く、伐採前の樹高が2mを超えるとその値が20%以下に低下していた。また、伐採前の前生稚樹密度と12年後の高木性広葉樹のBAに基づく優占度の関係から、12年後に高木生樹種が優占する林分として成立する目安として、伐採前の樹高2m以上の前生稚樹の密度が2000本/ha程度以上必要であると考えられた。
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