研究課題/領域番号 |
17K07869
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研究機関 | 地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所 |
研究代表者 |
山崎 一夫 地方独立行政法人 大阪健康安全基盤研究所, 微生物部, 主幹研究員 (30332448)
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研究分担者 |
杉浦 真治 神戸大学, 農学研究科, 准教授 (70399377)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 擬態 / 寄生 / 植食性昆虫 / 視覚的防御 |
研究実績の概要 |
本年度は、(1)チョウ目幼虫に似た虫えいによる視覚的防衛の検証、(2)植物の寄生擬態候補の探索、(3)その他を行った。 (1)虫えいを誘導する昆虫には、寄主植物に円筒形でチョウ目幼虫のように見える虫えい(ミザクラハベリフクロフシ、トサカフシなど)を形成させる種がある。これが視覚的に幼虫のように見せることにより、他の植食性昆虫による虫えいやその周辺部位への食害を防ぐ効果があるのではないかという仮説を考えた。これを検証するために、緑地で春季にサクラの枝に、幼虫の形にした粘土(ダミー幼虫)を1つずつ配置した。また、粘土を配置しないコントロールも設定した。7日後に植食を評価したが、ダミー幼虫により植食が減少する傾向は認められなかった。虫えいは大量に集中的に形成される場合が多いので、今後はダミー幼虫の密度を増やした実験が必要である。 (2)近畿地方と山梨県で、植物の部位が昆虫に利用されているように見せかける擬態の候補を調査した。芽の柔毛による菌感染擬態や茎にカイガラムシ、アブラムシなどが寄生しているように見える植物があり、それらは寄生擬態の候補と考えられた。すでに利用、寄生されている植物は、誘導防衛が発達していたり、天敵が誘引されていたり、食物の質・量が低下するからである。この他、葉の形が有毒植物に似る植物が観察され、植物において広く視覚的な防御が存在する可能性が示唆された。 (3)この他、野外調査の副産物として、本来、クモバチ媒であるパインップルリリーにモリチャバネゴキブリが訪花して送粉することを記録した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
植物、昆虫、その他の小動物において、寄生されていることにより被食されることを防ぐ「寄生擬態」と考えられる例を野外調査から見出して、論文や学会発表で公表してきた。その中で、鳥の糞に似た潜葉痕が他の植食性昆虫による葉の食害を減らす可能性があることを示す野外実験データを得ている。幼虫に似た虫えいによる植食低減効果については、今のところ支持される野外データは得られていないが、調査は進めている。幼虫型粘土を用いた野外実験について、基礎的なデータを得ている。さらに、植物の視覚的な防衛はあまり注目されてこなかった研究テーマであるが、学会発表等により生態学、植物学の研究者や一般市民に広く紹介する努力も行ってきた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)植物、昆虫、その他の動物などで、寄生擬態と考えられる例がないか、野外観察や文献調査を継続する。 (2)切れ込みのある葉は、食害されているように見せかけて、植食を減らす意義があるという仮説がある。すでに食害されていると餌としての質・量が不十分であったり、視覚的に捕食者が誘引されるからであると考えられている。これを検証するために、ヤマグワなどを用いて、切れ込みのある葉とない葉の間で、植食量を比較する。また、幼虫型粘土を配置して、鳥などによる攻撃率を比較する。 (3)これらの成果を論文や学会発表を通じて公表する。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症関連の業務により、研究の進展が遅れ物品購入が滞った。次年度は早期に必要な消耗品を購入する。
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