研究課題/領域番号 |
17K07870
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研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
澤田 圭 北海道大学, 農学研究院, 講師 (10433145)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | めり込み強度 / 腐朽分布 / 降伏理論 / 釘 / 曲げ強度 / 質量減少率 |
研究実績の概要 |
木造住宅の性能は接合部の性能によって大きく変化するため、接合部に腐朽が発生すると構造性能は大きく低下する危険性がある。木造住宅に対して適切な保全を行うためには、木造住宅の主要な接合部である釘およびボルト接合部の劣化時における荷重-変形挙動を把握することが重要となる。平成29年度はそのような機械的接合部を構成する材料の応力-変形挙動を調べた。 機械的接合部にせん断力が作用すると、はじめは主材と側材の境界で木材のめり込みが生じ、その後接合具に曲げ降伏が生じる。これまでの研究より、腐朽部を有する接合部試験でも接合具には曲げ降伏が見られることが確認されている。そこで住宅に一般的に使われている太め鉄丸釘を用いて曲げ試験を行い、曲げモーメント-変形角関係を得た。 木材のめり込み応力-変形挙動は、腐朽処理を施した木材のめり込み試験より得た。腐朽処理を施した木材は、建築構造材料として使われることが多く、耐朽性が低いモミ属の樹種であるトドマツ製材である。供試菌は、JISの耐朽性試験用標準菌株である褐色腐朽菌オオウズラタケである。試験体の腐朽の様子も観察し、様々な腐朽の程度と、それに応じためり込み応力-変形挙動を得ることができた。 こうした材料の応力-変形挙動を把握することは接合部のせん断挙動を推定するのに役立つと考えられる。そこで、木材が部分的に腐朽している釘接合部のせん断耐力の推定を試みた。用いた理論は降伏理論と呼ばれるもので、木材と接合具の強度から接合部の耐力を推定するものである。健全材に対してはその理論が有効であることが認識されている。部分的な腐朽を有する木材という要素を加えて理論式を構築したところ、理論値と実験値は近い値となり、構築した推定式の有効性を示すことができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究は、木質構造機械的接合部に部分腐朽や全体腐朽が生じた際における、せん断挙動の推定とせん断性能を評価することを目的としている。この評価を行うため、平成29年度は、機械的接合部を構成する材料試験として、腐朽した木材のめり込み応力-変形挙動と、接合具の曲げモーメント-変形角挙動を調べることを計画した。 接合具の曲げモーメント-変形角挙動を得るため、太め鉄丸釘の曲げ試験を行い、曲げ強度やモーメント-変形角モデルを把握できた。木材のめり込み応力-変形挙動は腐朽処理したトドマツ材のめり込み試験より得ることができた。めり込み試験体を用いて、腐朽による変色の範囲を調べ、質量減少率を測定した。質量減少率が5~20%の範囲では試験体が部分的に腐朽しており、めり込み強度のバラツキは大きかった。質量減少率が20%以上となると試験体は全体的に腐朽して、めり込み強度は大きく低下した。これにより木材の腐朽分布とめり込み強度の関係を得ることができた。 釘の曲げ強度と、健全材および腐朽材のめり込み強度を用いて、釘接合部の降伏せん断耐力を推定した。木材中に健全部と腐朽部があるモデルを作り、降伏理論を用いてそのモデルの条件を満たす式を構築した。降伏理論式は木材が一様な強度を持つとき有効であり、設計式として広く使われているが、本研究より、部分腐朽のような異なる強度が一つの木材中にあるときでも、降伏理論式は有効であることが判明した。平成29年度は計画通りに研究を実施することができた。
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今後の研究の推進方策 |
平成29年度の研究から釘の曲げモーメント-変形角モデルと、健全材および腐朽材のめり込み応力-変形モデルを得ることができた。また、木材のめり込み応力-変形関係は腐朽分布に影響を受けること、釘接合部の腐朽分布が分かれば降伏せん断耐力を推定できることが分かった。これは腐朽分布が変わるとせん断力-変形挙動も変わることを意味する。そこで平成30年度は腐朽分布を変化させた非線形解析を行い、腐朽パターンを変えたシミュレーションを行い釘接合部のせん断力-変形挙動を求める。全体的に腐朽した接合部の非線形解析プログラムは既に構築済みである。木材が部分的に腐朽した場合も計算できるようにプログラムを修正する。解析には木材のめりこみ剛性と釘の曲げ剛性が必要となるが、これは平成29年度に実施した研究結果を用いる。木材のめり込み応力-変形挙動と釘の曲げモーメント-変形角挙動はマルチリニアモデルとして扱い、釘接合部が弾性変形から降伏へと変形する過程、そして降伏以降の変形をする過程において、応力状態がどのように変化していくのか調べる。様々な腐朽分布を持つ釘接合部に対してせん断力-変形挙動を調べることで、腐朽が生じた釘接合部のせん断メカニズムが分かり、この点の解明は釘接合部の腐朽診断に大きく役立つことになる。
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