研究課題/領域番号 |
17K07871
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研究機関 | 北見工業大学 |
研究代表者 |
服部 和幸 北見工業大学, 工学部, 准教授 (20333669)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | セルロース溶液 / セルロース / セルロース溶媒 / 非晶セルロース / 結晶化 |
研究実績の概要 |
特異な非晶セルロースの調製と水中での安定性評価 1) 特異な非晶セルロースの調製 市販の微結晶セルロース、木材パルプ (サルファイト蒸解法)、再生紙由来のセルロースをTAPPI標準法で分子量を測定し、それぞれDP216、716、550の結果を得た。これらの結晶化度をX線回折で調べると、それぞれ0.89、0.80、0.70であった。エチレンジアミンとNaSCNを種々の割合で混合し、これに微結晶セルロースを溶解して最大溶解度を調べた。エチレンジアミン/NaSCNの割合が55/45でセルロースの溶解度は最大16wt%に達した。木材パルプ、再製紙についてもそれぞれ溶解し、濃度10%の3種類のセルロース溶液を得た。各セルロースは1g使用したが、微結晶セルロースについては、20gにスケールアップすることも検討した。溶解の進行とともに粘度が上昇するため小規模の場合よりも撹拌が困難であったが、回転羽を用いた新規な溶解方法を確立させた。このようにして得られた各セルロース溶液にエタノールを加え、固体のセルロースを沈殿させた。得られた固体セルロースを乾燥してIRスペクトルを測定すると、溶媒由来のNaSCNを微量含んでいることが分かったが、メタノールで繰り返し洗浄することにより完全に除去された。X線回折で結晶性を調べると、いずれのセルロースも非晶であった。 2) 非晶セルロースの水中での安定性評価 1)で調製した非晶セルロースの結晶化挙動を調べた。50℃の温水中で12時間、1日、3日、1週間後に一部を取り出し、乾燥した後、X線回折および固体NMRを測定したところ、初めの12時間でわずかに結晶化が進行し、一部がⅡ型となったが、その後は結晶化が全く進行せず、ほぼ無定形を保っていることが分かった。この結果はセルロースの分子量や種類によらず、他の方法で調製した非晶セルロースには見られない新規な性質である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度は、特異な非晶セルロースの調製とその水中での安定性を評価し、当初の計画通り進行している。 1) 特異な非晶セルロースの調製については、①微結晶セルロース、②木材パルプ (サルファイト蒸解法)、③再生紙由来のセルロースについて検討を行い、計画していたバクテリアセルロースについては、試料の供給困難のため実施できていないが、代わりに再生紙を用いて由来の異なる3種類のセルロースについて実施した。TAPPI標準法で分子量を測定し、X線回折により結晶化度を調べて結果を得ている。これらをエチレンジアミン/NaSCNの割合が55/45の溶液に溶解し、3種類のセルロース溶液を得た。微結晶セルロース溶液については、スケールアップも検討し、実施可能であることを見出した。各セルロース溶液にエタノールを加えて沈殿した固体セルロースを、濾過・乾燥した後、X線回折で結晶性を調べ、いずれも非晶であることを確認した。 2) 非晶セルロースの水中での安定性を評価した。1)で調製した非晶セルロースの温水50℃での結晶化挙動を調べた。12時間、1日、3日、1週間後に一部を取り出し、乾燥した後、X線回折および固体NMRを測定したところ、初めの12時間でわずかに結晶化が進行し、一部がⅡ型となったが、その後、結晶化は全く進行せず、ほぼ無定形を保っていることが分かった。この結果はセルロースの種類によらず、他の方法で調製した非晶セルロースには見られない新規な性質である。以上の成果の一部を、第66回高分子学会年次大会にて発表した。
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今後の研究の推進方策 |
1) 非晶セルロースの加水分解 今年度調製した非晶セルロースの加水分解性を、従来法で得た非晶セルロースや天然セルロースと比較する。セルロースの加水分解はすでに多くの報告例があるが、結晶化度や分子量、粒径などに大きく依存するので文献とは直接の比較ができない。そこで、本年度用いた3種類の天然セルロースおよびそこから得られる非晶セルロースについて、グラインダーで粒径を揃え、希硫酸、濃硫酸 (72%)、酵素セルラーゼを用いて加水分解を行う。温度・時間を変えながら系統的に実施し、各セルロースの分解性を比べる。酵素を用いる場合は、その種類や量を変えた検討も行う。比較の方法は、反応液の一部を一定時間毎に取り出し、水溶部についてはグルコースとそのオリゴマーをHPLCで定量する。不溶部については、粘度法で分子量の変化を分解前と比較し、X線回折で結晶化度の変化を追跡する。目的通り加水分解性の向上が認められなければ、非晶セルロースを得る際に用いた沈殿剤を変えて、質の異なる非晶試料を作製して加水分解性を再度調べる。 2) 非晶セルロースの高次構造と加水分解性の関係解明 本研究の特異な非晶セルロースが加水分解を受け易いならば、それは水素結合が他のセルロースと異なるために違いない。これを証明する。非晶セルロースを重水に浸し、乾燥後、赤外吸収スペクトルを測定する。水素結合していない水酸基、あるいは軽水と結合している水酸基は、水素が重水素に交換されるため、ピークシフトが必ず起きる。これを天然セルロースや一般的な非晶セルロースと比較する。セルロースの非晶部と結晶部では、化学シフトは近接しているが、運動性に起因する緩和時間は異なる筈である。この運動性は加水分解性と密接に関係する筈であり、加水分解の受け易さを解明できる。成果は、国内および米国化学会セルロース部会で各年度1回ずつ口頭発表し、国際学術誌へ公表する。
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