研究課題/領域番号 |
17K07871
|
研究機関 | 北見工業大学 |
研究代表者 |
服部 和幸 北見工業大学, 工学部, 准教授 (20333669)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | セルロース溶液 / セルロース / セルロース溶媒 / 非晶セルロース / 結晶化 / 加水分解 / セルラーゼ |
研究実績の概要 |
特異な非晶セルロースの加水分解性の検討 前年度までに、市販の微結晶セルロースや木材パルプ、再生紙由来のセルロースをエチレンジアミンとチオシアン酸ナトリウムの混合物に溶解し、それらの溶液に非水系の有機溶媒を添加することで、水中でも安定な非結晶のセルロースが調製できることを示してきた。当該年度は、このようにして調製した非晶セルロースの加水分解性を、従来法で得た非晶セルロースや天然セルロースと比較することを検討した。 天然セルロースの加水分解については膨大な数の報告例があるが、加水分解性は結晶化度や分子量、粒径などに大きく依存するので、文献の結果と本研究の試料では直接の比較ができない。そこで、前年度用いた3種類の天然セルロース、およびそこから得られる非晶セルロース (本手法および他の手法で調製したもの) について分解性を比較した。各々のセルロースをグラインダーで粒径を揃え、希硫酸、濃硫酸 (72%)、酵素セルラーゼを用いて加水分解を行った。温度・時間を変えながら系統的に実施し、各セルロースの分解性を比べた。酵素を用いた分解については、その種類や量を変えた検討も行った。比較の方法は、反応液の一部を一定時間毎に取り出し、水溶部についてはグルコースとそのオリゴマーをHPLCで定量した。不溶部については、粘度法で分子量の変化を分解前と比較し、X線回折で結晶化度の変化を追跡した。以上の検討から、本手法で得た非晶セルロースは、天然の結晶セルロースよりも加水分解性が著しく高く、さらに従来法で得られる非晶セルロースよりも高いことが明らかとなった。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当該年度は、特異な非晶セルロースの加水分解性を検討し、当初の計画通り進行している。 3種類の由来の異なる天然セルロースをエチレンジアミンとチオシアン酸ナトリウムの混合溶液に溶解し、それらの溶液に非水系の有機溶媒を添加して調製した水中でも安定な非結セルロースの加水分解性を、従来法で得た非晶セルロースおよび天然セルロースと比較した。計画通り、3種類の天然セルロース、およびそこから得られる非晶セルロース (本手法および他の手法で調製したもの) について、グラインダーで粒径を揃え、希硫酸、濃硫酸 (72%)、酵素セルラーゼを用いて加水分解を行った。温度・時間を変えながら系統的に実施し、各セルロースの分解性を比べた。また酵素を用いた加水分解については、その種類や量を変えた検討を行った。比較の方法は、反応液の一部を一定時間毎に取り出し、水溶部についてはグルコースとそのオリゴマーをHPLCで定量した。不溶部については、粘度法で分子量の変化を分解前と比較し、X線回折で結晶化度の変化を追跡した。以上の検討から、本手法で得た非晶セルロースは、天然の結晶セルロースよりも加水分解性が著しく高く、さらに従来法で得られる非晶セルロースよりも高いことが明らかにできた。以上の結果は、その一部を第12回SPSJ国際高分子会議 (IPC2018) にて発表した。
|
今後の研究の推進方策 |
非晶セルロースの高次構造と加水分解性の関係を解明 本研究の特異な非晶セルロースが加水分解を受け易いならば、それは水素結合の状態が他のセルロースと異なるために違いない。これを証明する。非晶セルロースを重水 (D2O) に浸し、乾燥後、赤外吸収スペクトルを測定する。水素結合していない水酸基、あるいは軽水 (H2O) と結合している水酸基は、水素が重水素に交換されるため、ピークシフトが必ず起こる。これを天然セルロースや一般的な非晶セルロースと比較する。また、近年、固体NMRにおいて、1Hの縦緩和時間を成分ごとに分離できる二次元NMRの一手法で固体物質の非晶部の構造が調べられている。申請者らも以前に、この手法でポリスチレンの非晶部を観察した。セルロースの非晶部と結晶部では、化学シフトは近接しているが、運動性に起因する緩和時間は異なる筈である。ROSYと呼ばれるこの測定法で、非晶部と結晶部の運動性の違いを比較する。運動性は加水分解性と密接に関係する筈であり、加水分解の受け易さの理由が解明できる。成果は、国内および米国化学会セルロース部会で口頭発表し、国際学術誌へ公表する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
実施したセルロースの加水分解における分解物の解析において、当初はHPLC法による分析が困難であれば、他の方法として分解により生じた糖の還元末端を化学的に定量するDNS法の実施を計画していた。しかし、HPLC法のみで正確な分析が可能であったためDNS法は行わず、DNS法実施に必要な薬品・器具の購入が不要となったため、当該助成金に残額が生じた。残額は翌年度の固体NMR測定に必要な試料および試薬の購入費として使用することを計画している。
|