前年度までに、市販の微結晶セルロースや、針葉樹・広葉樹パルプ、再生紙由来のセルロースをエチレンジアミンとチオシアン酸ナトリウムの混合物に溶解し、それらの溶液に非水系の有機溶媒を添加することで、水中でも安定な非結晶のセルロースが調製できることを示し、この手法で調製した非晶セルロースの加水分解性を、従来法で得た非晶セルロースや天然セルロースと比較することを検討してきた。当該年度は、本研究の手法で得られた非晶セルロースが加水分解を受け易い理由を考察した。水素結合の割合が結晶セルロースと異なるためと予想し、これを実証することを試みた。当該研究で得た非晶セルロースを重水に含浸し、凍結乾燥した後、赤外吸収スペクトルを測定したところ、3400カイザー付近のOH伸縮振動が著しく減少し、新たに2525カイザーにOD伸縮振動に由来する吸収が現れた。これは、この非晶セルロースの水酸基のプロトンが、重水によって重水素と交換されたことを示している。同様の操作を天然セルロースでも行って結果を比較したところ、天然セルロースではODの吸収は非晶セルロースよりも小さかった。すなわち、本研究の非晶セルロースは、天然セルロースよりも水素結合の割合が低いことが示された。また、この非晶セルロースの固体NMRを測定し、セルロース分子の運動性について検討した。非晶セルロースのスピン格子緩和時間を測定し結晶セルロースと比較したところ、分子中に局所的に運動性が高い部分があることが示された。
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