簡易な方法で樹木個体の樹幹の水分通道性を評価する手法の開発を目指し、樹幹含水率・樹液流量・辺材圧ポテンシャルの3種類の樹幹水分通道特性の同時計測を継続した。種によって測定項目は異なるが、供試した樹種は全体で針葉樹3種広葉樹2種である。樹幹含水率については、本研究課題開始以前を含め最長5年間同一個体同一部位での連続測定に成功した。 これまでに得られたデータをもとに3種類の樹幹水分通道特性それぞれおよび相互関係の解析を進めた。誘電を利用して測定している樹幹含水率については、電気的ノイズと考えられるデータが散見され、さらに誘電率の温度依存性が認められるので、ノイズの削除法や温度補正法の検討を進めた。直径デンドロメーターの固定法を工夫して測定している辺材圧ポテンシャルについては、樹幹の熱膨張や樹幹の放射方向ヤング係数など圧ポテンシャルの日変動および季節変動の正確な把握に必要なパラメーターの検討を進めた。樹液流量と辺材圧ポテンシャルの日変動における相互関係にはヒステリシスが存在することを確認し、ヒステリシスの影響を除いて日毎の両者の関係を求める方法を検討した。カラマツ、スギ、トドマツの針葉樹3種の辺材圧ポテンシャルの長期計測データから、気象環境に対する3種それぞれの反応の特徴を抽出することができた。 3年間の本課題の実行により、成木の辺材圧ポテンシャルを連続的に半非破壊で長期計測するための機器およびその運用法を開発できた。これにより、樹幹含水率と樹液流量データを合わせ、3種類の樹幹水分通道特性データを同一個体で1成長期にわたって連続計測する技術的基盤を確立することができた。一方、3種類の樹幹水分通道特性それぞれの変動、すなわち気象条件に対する樹木の水分通道特性の挙動はかなり複雑で、特に3種類の樹幹水分通道特性相互関係の解明にはデータ解析手法のさらなる発展が必要であることがわかった。
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