研究課題/領域番号 |
17K07883
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研究機関 | 国立研究開発法人森林研究・整備機構 |
研究代表者 |
戸川 英二 国立研究開発法人森林研究・整備機構, 森林総合研究所, 主任研究員 (60343810)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | セルロースフィルム / シランカップリング剤 / 表面疎水化 / CVD |
研究実績の概要 |
セルロース素材の高性能・高機能化を目的として、セルロースフィルム表面への無機シリカ(酸化ケイ素;ガラスの主成分)コーティング処理によるセルロースの無機複合化を試みている。複合化させるセルロース基材として、市販セロファン、および自製再生セルロースフィルム(コットン/塩化リチウム/ジメチルアセトアミドから調製)を選定した。コーティング試薬として一番シンプルな構造を有するメチルトリメトキシシラン(MTMS)を選定した。これらを用い、所定の温度と時間で処理を行なって得られたコーティングフィルムの特性を解析した。 コーティング再生セルロースフィルムのはっ水性を調べるために水接触角を測定した。未処理の市販セロファンおよび自製セルロースフィルムの水接触角は、それぞれ33°、76°であった。とくに、セロファンの親水性が高いことが確認された。MTMSを用いて120℃で気相コーティング処理した接触角は、それぞれ91°、115°であった。両フィルムとも、コーティングによって高いはっ水性を付与できたことが明らかとなった。 コーティング処理した自製セルロースフィルムの引張物性を測定した結果、ある程度の温度と時間の処理条件までならば、未処理フィルムの引張物性と同等、あるいは少し増大させることが明らかとなった。150℃・24時間コーティング処理後の引張物性は、未処理フィルム値よりも低下していたため、加熱処理中にセルロースの分解が起こっているものと考えられた。いっぽうで、シランを使用しない同加熱条件下のコントロール実験での引張物性値は、気相コーティングフィルム値より低い値を示した。これは、処理によってフィルムに耐熱性が付与されたことを示唆した。以上の結果は、シランカップリング剤MTMSを用いた簡便な無機コーティング法によって、セルロースフィルムの高性能化が可能なことを示している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究計画では、3官能性のトリアルコキシシラン(シランカップリング試薬)を用いて再生セルロースフィルム表面へのコーティング条件検討ならびに得られた複合化(表面コーティング)フィルムの性能解析を立案していた。 本課題では、コーティングを施すセルロース基材として、再生セルロースフィルムを選択した。これまでアルコキシシラン(シランカップリング剤)を使用したセルロースコーティング研究のほとんどが、繊維や粉体、織物の形状で行なわれてきている。つまり、フィルムを用いたセルロースコーティング研究例は非常に少ない。これは従来の液相コーティング法では、反応試薬の調製や洗浄の際に水ならびに反応触媒として酸を使用するため、フィルムを用いる場合には、水による膨潤や乾燥による収縮が原因で大きな形状の変化が起き、さらに残留する酸による分解が発生する場合がある。これを避けるため従来までの研究では、フィルムはサンプルとして採用されてこなかった。しかしながら、フィルムは包装や成分分離に用いられる重要な材料形態のひとつである。本研究ではフィルムを用いて、またこれまでの試薬調製からフィルム洗浄を含めた煩雑な手順が必要な液相コーティング方法ではなく、簡便な気相蒸着法による表面コーティング法を開発しようとする点が独創的である。 現在までのところ、セルロースフィルムのアルキルアルコキシシラン(シランカップリング試薬)を用いた簡便な実験手順による気相コーティング処理条件が見出せ、さらに透明性を低下させない状態でセルロースフィルム表面の疎水化に成功している。
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今後の研究の推進方策 |
前年度から継続して、トリアルコキシシラン(シランカップリング剤)の気相コーティング条件の探索、およびコーティングされたセルロースフィルムの特性解析を行なう。さらに、コーティング試薬のシランの種類、とくに官能基の種類の中でもアルキル鎖長を変化させてコーティング効果の変化を検討する。 フィルムの特性解析として具体的には、顕微鏡(電子顕微鏡・原子間力顕微鏡)による形態観察、透明度、引張機械物性(弾性率・強度・伸度)、表面接触角(はっ水性)、吸水率(バルク疎水性)、熱物性(耐熱性・熱重量測定)などの測定を行なう。当該年度に、研究遂行上欠かせない接触角測定装置が導入できたため、サンプルのはっ水性を調べる測定が順調に行なえる。
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次年度使用額が生じた理由 |
理由:サンプルの構造解析に使用しているX線回折装置は、設置から25年近く経過している。そのためいつ故障しても不思議はなく、突発的な修理費用に備えて予算の使用を控えていた。幸運にも当該年度には修理が必要な事態にはならなかった。その結果、次年度使用額が生じた。
使用計画:次年度は最終年度に当たり、研究成果を広く発信するため、学会発表する旅費に多くを充てる。
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