リグノスルホン酸(LSA)による木材の加水分解では、モデル実験等の結果を通じて木材の非晶質特にヘミセルロースの加水分解が優先的に起こることが示唆されている。今年度に行った加水分液の核磁気共鳴分析では、スギ木粉の加水分解ではマンノースに帰属されるシグナル強度が高く、キシロース、グルコースが同程度のシグナル強度を持って観察された。さらにシラカバの加水分解液の分析では、キシランの検出量が高く、またグルコースに帰属されるシグナルも観察されたが、マンナンに帰属されるシグナルは検出限界以下であった。これら結果は、各試料のヘミセルロースの組成と相関するものであり、ヘミセルロースの加水分解がセルロースの加水分解に優先することが明らかになった。また糖の過分解で生成されるフルフラール類に関しては、シラカバ木粉の加水分解液中にフルフラールの生成が確認できたが、スギ、シラカバ木粉両加水分解液中に5-ヒドロキシメチルフルフラールの生成は検出されなかった。加水分解残渣のX線回折では、スギおよびシラカバ木粉ともに、LSによる加水分解によりセルロースIに帰属されるピーク強度が増加した。これは、LSによるセルロースの結晶成分の相対的難加水分解性によると考えられる。以上の結果から、LSによる木粉の加水分解の結果は、非晶性のセルロース成分、ヘミセルロースが優先的に加水分解され、かつ各糖成分の過分解が抑制できるというモデル化合物による実験結果を証明するものであった。鉄イオン添加によるLSAの除去に関しては、LSA調製時の限外ろ過による分子量範囲を変えた場合にも、塩型のLSの場合とは異なり沈殿が観察されなかった。この点に関しては以前不明であるが、LSAの酸性度が一因であると推測している。現状では昨年度の報告で記載した通り、加水分解液を加熱することでLSAを高分子化し沈殿させる方法は効果的であると考えている。
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