研究課題/領域番号 |
17K07888
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研究機関 | 香川大学 |
研究代表者 |
一見 和彦 香川大学, 瀬戸内圏研究センター, 教授 (70363182)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 植物プランクトン / 海産珪藻 / Chaetoceros / 増殖特性 / 28S-rDNA |
研究実績の概要 |
今年度は、昨年度とは異なる海域でChaetoceros属の分離し培養株を作成すると共に、昨年度に各海域から分離し、増殖試験を行った培養株について18S-rDNAおよび28S-rDNA領域の解読を行った。有明海と沖縄県沿岸域において分離を試みたところ、有明海の1地点で小型Chaetoceros属の培養株を得ることが出来たが、沖縄県沿岸域では本属の出現は認められなかった。有明海で得られた小型Chaetoceros属は、昨年度に東京湾から瀬戸内海で分離されたそれと同様の増殖特性を有しており、高速増殖型であることが確認された。またこれまでに得られた培養株について18S-rDNAおよび28S-rDNA領域の解読を行った結果、18S-rDNA領域の塩基配列では株間の明確な差異を判断することが出来なかったが、28S-rDNA領域の解読により、株間の同異性を予想することができた。すなわち形態的特徴からC. salsugineumと同定される瀬戸内海・紀伊水道、備讃瀬戸、周防灘および有明海産の分離株はすべて同じ塩基配列を有する高速増殖型群。一方で、形態的特徴からC. salsugineumと同定された仙台湾産の株は高速増殖型ではなく、28S-rDNA領域の塩基配列が高速増殖型群とはわずかに異なっていた。同様に形態的特徴からC. calcitransと予想された瀬戸内海・備讃瀬戸、三河湾および東京湾産の分離株はすべて同じ塩基配列を有する高速増殖型群であった。一方で、1960年代に東京湾で分離されたC. calcitransは高速増殖型ではなく、28S-rDNA領域の塩基配列がわずかに異なっていた。以上から、小型Chaetocerosは形態的特徴のみによる種同定は不可能であることが改めて示されると共に、高速増殖型の小型Chaetocerosは同種多型か別種として存在することが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度の成果に加え、我が国に生息するさらに多くの小型Chaetoceros属を分離し培養株を作成することが今年度の目標の一つであり、瀬戸内海以西の有明海においても当該種を見出すことが出来た。一方、昨年度は亜寒帯域に位置する北海道沿岸で小型Chaetocerosの出現が認められなかったことから、今年度は亜熱帯域に位置する沖縄県沿岸で試験株の分離を試みたが、本海域でも小型Chaetocerosの出現は認められなかった。実際に小型Chaetoceros属が亜寒帯、亜熱帯海域に生息するのか否かについては、サンプリング時期や培養温度等を検討する必要があると考えられ、次年度に再度検討する必要がある。 また分子生物学的手法による種同定を検討した結果、28S-rDNA領域の塩基配列を解読することで、今年度までに得られた各海域の12クローン株間の遺伝的な差異を確認することができ、計画通りに研究を進めることができている。28S-rDNA塩基配列のわずかな違いにより明らかな増殖特性の違いが見られることから、我が国沿岸に生息する小型Chaetoceros属の分布特性について、分子生物学的には整理できる目処がたった。一方で、形態学的特徴による種の同定が極めて困難であることが明らかとなったことから、種同定に関して塩基配列のわずかな差異をどのように評価するのか、来年度の課題として検討する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
亜寒帯、亜熱帯海域では小型Chaetoceros属の出現が確認できなかったが、昨年度、今年度とは異なる時期に試料採取を実施するなど、次年度に再度分離株の作成を試みる。また通常増殖型の小型Chaetoceros属の分布が確認されている東北海域および日本海沿岸においても本研究の未調査海域としてサンプリングを予定しており、以上により我が国沿岸域の主要海域を網羅するとみなす。 また高速増殖型か否かについては、C. salsugineum(あるいはその近縁種)、C. calcitrans(あるいはその近縁種)ともに塩基配列の違いが認められた。この差異は500~700塩基のうちのわずか1~数塩基であり、この違いが同種間の多様度の範疇に入るのか、別種としての明らかな差異であるのか明確にする必要があると考えられた。近年、分子生物学的手法を用いた珪藻類の種同定に、その差異がより明確なITS1-ITS2領域の解読が有効である報告がなされるようになってきた。本研究でもITS1-ITS2領域の解読を試み、分子生物学的手法による本属分布域の視覚化と分類学的な仕分けを進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
昨年度は、遺伝子解析に関する経費が予定よりも低く抑えられた一方で、今年度は昨年度以上の遺伝子解析を実施する必要がある。また遠方海域での試料採取に特化するため、前年度以上の出張費が見込まれるため。 次年度は新たなrDNA領域の解読を行うためのプライマー作成、増加した試験株も含めたすべての試験株の解析にあてると共に、当初予定していた出張費にも加算する形で使用する。
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