研究課題/領域番号 |
17K07889
|
研究機関 | 福井県立大学 |
研究代表者 |
富永 修 福井県立大学, 海洋生物資源学部, 教授 (90264689)
|
研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
|
キーワード | 海底湧水 / マガキ / 炭素安定同位体 / アオサ / 窒素安定同位体比 / DIC |
研究実績の概要 |
平成29年度は、海底湧水の生態学的意義を検討するため、カキ養殖が盛んに行われ、湧水の豊富な環境である全国3カ所において、カキ類の生産に海底湧水がどの程度寄与しているかをカキ殻の炭素安定同位体比を用いて推定した。また、基礎生産者の窒素安定同位体比を用いて推定する手法を確立するために、培養実験下でアオサの同位体濃縮係数を調べた。 カキからの地下水寄与推定:2017年6月から8月の期間に広島県竹原、山形県遊佐、宮城県舞根、で、海水と地下水を採取し、水温, 塩分, 溶存無機炭素安定同位体比、DIC濃度を測定した。また、マガキとイワガキ貝殻のδ13CSHELLを分析した。さらに、POMのδ13CPOMを分析した。3地域において、δ13CSHELLから推定した海底湧水の寄与率は湧水の指標となるラドン(222Rn)濃度と符合した。竹原2地点での湧水寄与率はそれぞれ10%と0%で、違いがみられた。遊佐のラドン濃度の高い地点では湧水寄与率が25%~31%、ラドン濃度の低い地点では0~15%で、隣接した地点にも関わらず湧水環境が明瞭に異なった。舞根の湧水寄与率は2~30%で、湾口から湾奥につれて増加した。しかし、湧水の少ない地域ではδ13CSHELLから推定した湧水寄与率が負の値を示すことがあり、個体差も大きかった。エンドメンバーとして用いた海水のδ13CDICが低いことや、海水・地下水のδ13CDICの日変動が関係していると考えられた。 アオサ実験:1L三角フラスコ内にて密閉状態で培養した。培地の栄養塩濃度は添加量6mL、3mL、0mLの三段階で、それぞれ3連で培養した。その結果、培地の濃度が高いものほどδ15Nは低下し、培地を添加しなかったサンプルはδ15Nの値は上昇した。また、1個体を除いて栄養塩を添加した培地のサンプルの重量は増加し、添加しなかった個体の重量はすべて減少した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
H29年度は台風などの天候の影響で野外調査として計画していた海域のうち調査ができなかった場所が複数あった。そのため、野外フィールドデータを計画通り得ることができなかった。しかしながら、調査を実施した海域では計画通りの試験を実施することができた。標本の分析もほぼ同時進行的にできているが、硝酸態窒素安定同位体比分析に関しては、分析結果が安定しておらずH30年に持ち越しとなった。アオサの培養実験に関しては、予備実験が終了し、問題点を抽出して解決策が得られたことから培養条件を決定することができた。H30年度にこれまでの標本を分析する。
|
今後の研究の推進方策 |
当初の計画から修正なく進める。本年度は昨年できなかった調査域を含めて、野外でのデータ蓄積に努めるととともに、分析を進める.貝殻中の無機炭酸塩の炭素安定同位体比から地下水寄与率を推定する手法が確立されたので、湧水環境の異なる複数種の生態系で陸上淡水地下水の寄与率を評価する。H30年以降は、小浜湾での寄与率季節変化と山形県遊佐での寄与率年変化を検討する。さらに、藻場生態系-磯根水産資源の生産への地下水寄与率推定法を確立するため、アオサ、ワカメの窒素安定同位体比を用いたモデルを確立する。ゴールとして水産資源の生産に対する陸域地下水の生態学的意義を明確にする。
|
次年度使用額が生じた理由 |
平成29年度は台風等の天候悪化で予定していた野外調査をできない地域があったことから、旅費およびそれにかかわる経費(レンタカー、消耗品)が使用されなかった。また、窒素安定同位体比分析に関しても、本年度の標本最終終了後にまとめて分析するために、平成30年度に持ち越すことになった。平成30年度に29年度に実施できなかった海域でデータ収集するとともに同位体分析を進める。
|