昨年度までに貝殻を用いて地下水シグナルを検出して、その寄与率を推定する手法を確立した。コロナ禍で全国でのフィールド調査が実施できなかったので、本年度は、一次生産者の海藻類に記録された環境水シグナルを安定同位体比から検出することで栄養塩供給源の寄与を数値化し、その効果を評価することを目的として実験を進めた。安定同位体比が変化する条件を検証するため栄養塩と光それぞれの環境を段階的に変化させて培養実験を行った結果、光環境を変化させることで窒素安定同位体比の顕著な変化が確認された。 2020年の11月から12月にかけて、福井県立大学臨海研究センター屋外水槽でアナアオサの培養実験を二度実施した。無性生殖のアナアオサを一辺2㎝の正方形に切断し、透明な容器に入れて1水槽につき24個設置した。水槽に添加する栄養塩や光量は3段階に調整し、一度目の実験では水槽1が最大の栄養塩添加量になるように、二度目の実験では水槽1が最小の光量になるようにした。水槽から定期的に3個体ずつアナアオサを回収し、葉体全体のδ15N・δ13C値を測定した。 栄養塩条件を変化させた培養実験終了時のアナアオサのδ15N値は栄養塩添加量が少ない水槽3では低下する傾向がみられた。δ13C値は水槽間で大きな差はなかった。光条件を変化させた培養実験終了時のアナアオサのδ15N値は光量が多い水槽3では低下する傾向がみられた。δ13C値は水槽間で大きな差はなかった。 栄養塩条件を変化させた水槽では添加した過リン酸石灰によって水槽内が懸濁しやすい傾向にあり、添加量が少ない水槽3では最も盛んに光合成が行われたと考えられる。逆に光欠乏環境だった水槽1と2では光合成速度が低下し、栄養塩の取り込みが阻害されたと考えられる。実験期間は冬季で海水温が低く海藻の成長に適さなかった為、海水温の高い時期に液体培地を用いた検証を実施する必要がある。
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