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2018 年度 実施状況報告書

フサカサゴ科魚類の特異的塩類代謝:環境中人工放射性核種による解明

研究課題

研究課題/領域番号 17K07895
研究機関一般財団法人電力中央研究所

研究代表者

立田 穣  一般財団法人電力中央研究所, 環境科学研究所, 特別嘱託 (60371522)

研究分担者 津旨 大輔  一般財団法人電力中央研究所, 環境科学研究所, 上席研究員 (10371494)
小林 卓也  一般財団法人電力中央研究所, 環境科学研究所, 上席研究員 (60371530)
研究期間 (年度) 2017-04-01 – 2020-03-31
キーワード海産魚 / セシウム / 塩類代謝 / 動的モデル / シロメバル / フサカサゴ科 / 福島 / 硬骨魚
研究実績の概要

福島第一原子力発電所事故により東日本太平洋岸の海産魚は放射性セシウムで汚染されたが、事故後の濃度低減には差があった。特にシロメバルなどでは高濃度を示したが、その機序は従来の放射生態学的知見では説明できていない。仮説として、a)シロメバルは成長が遅く、加えて加齢による代謝低下により、塩類代謝が遅い、b)放射性セシウム濃度の高い海底環境の懸濁層で餌生物を摂取するため、餌中セシウム濃度が高く、シロメバルにおける浄化速度を遅延させる、c)定着性であり、冬季の産仔接岸により事故時の高濃度海水に暴露されて初期濃度が高い、が提起されている。
平成30年度は、
1)ICP-MS分析により、シロメバルなどフサカサゴ科魚類はマコガレイより安定セシウム濃度が高い傾向があることを確認できた。ICP-AES分析で得られたカリウム濃度は他魚種との有意な差がないことから、フサカサゴ科魚類のセシウム代謝は海水との浸透圧差による特異的取り込みではなく、排出におけるセシウムの代謝特異性である可能性が高いことが示された。
2)極低レベル放射能測定で得られた餌生物中放射性セシウム濃度は理論値より高いが、プランクトン分解測定で得られたセシウムの加給態比率が大きくはないことことから、食物連鎖移行における寄与分はみかけほど高くないことが示された。従って、餌生物(含む懸濁物寄与)における可給態セシウムを基にした、食物連鎖におけるセシウム移行計算が必要である。
3)シロメバル実験魚を福島沖で追加採捕し、活魚測定によるセシウム濃度低減速度の長期測定実験を継続し、代謝速度が明らかに遅いことを確認できた。また超音波コード化タグ標識放流シロメバルの福島沿岸における2ヶ年目の定着性を確認できた。
4)シロメバル年級群における放射性セシウム濃度のシミュレーション解析により2016年までの濃度推移を再構築し、学術論文とした。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

1.塩類濃度特性の解明:平成29年度は、シロメバル中の安定セシウム濃度とCs/K比が、キツネメバル・アイナメより高いことを確認できた。カリウム濃度は他魚種との有意な差がないことから、平成30年度に、フサカサゴのセシウム代謝は浸透圧ではなくセシウムの特異的代謝排出の可能性を確認できた。フサカサゴ科他魚類や他科魚種の塩類代謝との差異の最終確認が必要である。
2.棲み場環境の放射生態学調査:平成29年度は、シロメバルの胃内容物中放射性セシウム濃度が、主要な餌である無脊椎動物中放射性セシウム濃度の理論的期待値より高いことを見出した。平成30年度は、シロメバルの胃内容物および餌である無脊椎動物中放射性セシウムについて、加給態割合が大きくはない可能性を、プランクトン分解測定で見出した。可給態成分比率を基にした餌経由による浄化遅延の寄与の多寡の評価が最終年度の課題となった。
3.シロメバルの活魚測定と標識放流追跡:平成29年度は、福島沖で捕獲したシロメバルにおける放射性セシウムレベルの低減速度が、従来のアイソトープ実験で求めた半減速度より遅いことを確認した。平成30年度に実験魚を追加採捕し、長期活魚測定実験を継続できた。平成29年度に超音波コード化タグで標識放流したシロメバルは、採捕岩礁に1ヶ年定着生息していることが示された。平成30年度はシロメバルの2ヶ年目の定着性は福島沿岸でもほぼ確認できたが、シロメバル高濃度を初期高濃度水への暴露に帰するに十分なデータを得るために、3ヶ年目も放流魚の追跡を継続して、研究を完了させる必要がある。
4.モデルによる魚類中濃度の再構築:平成29年度は、年齢査定に基づくシロメバル年級群の放射性セシウム濃度は、2011年前後で、経年的濃度推移が異なることを示すことができた。平成30年度は2016年までのシロメバル中放射性セシウム濃度推移の解析結果を公表した。

今後の研究の推進方策

最終年度は、以下の研究を行って、最終結論を得る。
1)シロメバルとその他硬骨魚の塩類濃度特性の調査:シロメバル・キツネメバル・アイナメおよびマコガレイ中の安定同位体分析を行う。フサカサゴ科魚類の塩類代謝特異性の解明のために、これら3魚種および比較対象としてマコガレイの放射性・安定セシウムの食物連鎖移行寄与を解析し、安定同位体比との比較により塩類濃度特性の原因を明らかにする。
2)棲み場環境の放射生態学調査:海水からの移行寄与は小さいと解析されたため、研究対象海域の海水濃度はレベルの確認にとどめ、魚種別の胃内容物中(含む懸濁物)セシウムの魚類移行について、可給態成分の寄与を基にして動的生物移行モデルによる食物連鎖移行を定量解析し、棲み場環境の寄与を明らかにする。
3)シロメバルの活魚測定と標識放流追跡:平成30年度採捕の活魚中放射性セシウム濃度測定実験を継続し、代謝排出速度の最終値を得る。標識放流個体の定着性の最終確認のために、広域受信によるデータ取得を行い、初期濃度決定要因としての生息位置影響の多寡を評価する。
4)動的生物移行モデルによる硬骨魚類3種中濃度の再現計算法の構築:1)から3)で得られたデータを基に、東日本沿岸海水中放射性セシウムとシロメバル中濃度推移のシミュレーションを精緻化し、観測データを最もよく再現できる代謝と餌濃度の組みあわせを決定して、濃度推移を再構築し、フサカサゴ科魚類中シロメバルにおける塩類濃度特性とセシウム濃度決定要因に関する科学的根拠を示す。
最終年度の消耗品費,旅費の支出は、計画通り必要で,かつ妥当な経費と判断している。

次年度使用額が生じた理由

分析用ヘリウムの供給不足により、分析計画の一部を2019年度に変更した。翌年分助成金と併せて分析用消耗品購入費とする。

  • 研究成果

    (16件)

すべて 2019 2018 その他

すべて 国際共同研究 (6件) 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件) 産業財産権 (1件)

  • [国際共同研究] 放射線防護原子力安全研究所(フランス)

    • 国名
      フランス
    • 外国機関名
      放射線防護原子力安全研究所
  • [国際共同研究] ウッズホール海洋研究所(米国)

    • 国名
      米国
    • 外国機関名
      ウッズホール海洋研究所
  • [国際共同研究] 国家海洋局第三研究所(中国)

    • 国名
      中国
    • 外国機関名
      国家海洋局第三研究所
  • [国際共同研究] ウクライナ科学アカデミー計算機システム解析研究所(ウクライナ)

    • 国名
      ウクライナ
    • 外国機関名
      ウクライナ科学アカデミー計算機システム解析研究所
  • [国際共同研究] セビリア大学(スペイン)

    • 国名
      スペイン
    • 外国機関名
      セビリア大学
  • [国際共同研究]

    • 他の国数
      5
  • [雑誌論文] Mechanism of radiocesium depuration in Sebastes cheni derived by simulation analysis of measured 137Cs concentrations off southern Fukushima 2014-20162019

    • 著者名/発表者名
      石丸隆、立田穣、津旨大輔、青山道夫、浜島靖典、笠松伸江、山田学、芳村毅、水野拓治、神田穣太
    • 雑誌名

      Journal of Environmental Radioactivity

      巻: 203 ページ: 200-209

    • DOI

      https://doi.org/10.1016/j.jenvrad.2019.03.012

    • 査読あり
  • [雑誌論文] Numerical modelling of 137Cs content in the pelagic species of the Japanese Pacific coast following the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant accident using a Age structured Food-web Model2019

    • 著者名/発表者名
      Mokrane Velharet、Sabine Charmasson、津旨大輔、Mireille Mireille、Clusde Estournel
    • 雑誌名

      PLoS ONE

      巻: 14(3): e0212616 ページ: 1-31

    • DOI

      https://doi.org/10.1371/journal.pone.0212616

    • 査読あり / 国際共著
  • [雑誌論文] 137Cs distribution in the marine environment of the Baltic and Black Seas and off the Fukushima Dai-ichi NPP: similarities and differences assessed by model2018

    • 著者名/発表者名
      Vladimr Maedrich、Roman Bezhenar、立田穣、青山道夫、津旨大輔
    • 雑誌名

      Marine Pollution Bulletin

      巻: 135 ページ: 895-906

    • DOI

      https://doi.org/10.1016/j.marpolbul.2018.08.026

    • 査読あり / 国際共著
  • [学会発表] 領域海洋モデルにおける物質循環評価に対する河川影響2018

    • 著者名/発表者名
      津旨大輔、坪野考樹、三角和弘、立田穣
    • 学会等名
      第26回地球環境シンポジウム
  • [学会発表] 福島第一原子力発電所事故由来の放射性物質の海洋中の挙動に対する河川供給の影響2018

    • 著者名/発表者名
      津旨大輔、坪野考樹、三角和弘、立田穣、豊田康嗣、恩田裕一、青山道夫
    • 学会等名
      第55回アイソトープ・放射線研究発表会
  • [学会発表] Impacts of riverine input on oceanic 137Cs derived from the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant accident2018

    • 著者名/発表者名
      津旨大輔、坪野考樹、三角和弘、立田穣、豊田康嗣、恩田裕一、青山道夫
    • 学会等名
      日本地球惑星科学連合2018年大会
  • [学会発表] Artificial radionuclides dataset of seawater, sediment and biota in marine2018

    • 著者名/発表者名
      青山道夫、Roman Bezhenar、Vladimir Maedrich、立田穣、津旨大輔
    • 学会等名
      European Geophysical Union General Assembly 2018
    • 国際学会
  • [学会発表] Impacts of riverine input on distribution of oceanic 137Cs released from the Fukushima Dai-ichi Nuclear Power Plant accident2018

    • 著者名/発表者名
      津旨大輔、坪野考樹、三角和弘、立田穣、豊田康嗣、恩田裕一、青山道夫
    • 学会等名
      European Geophysical Union General Assembly 2018
    • 国際学会
  • [学会発表] Biogeochemical factors for determining radiocesium level in biota of the Pacific coast of eastern Japan2018

    • 著者名/発表者名
      立田穣、津旨大輔、青山道夫、浜島靖典、青野辰雄
    • 学会等名
      European Geophysical Union General Assembly 2018
    • 国際学会
  • [産業財産権] 自動航行装置の位置情報に基づく水中生息生物の位置特定手法2019

    • 発明者名
      立田穣
    • 権利者名
      立田穣
    • 産業財産権種類
      特許
    • 産業財産権番号
      特願2019-003782

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公開日: 2019-12-27  

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