研究課題/領域番号 |
17K07899
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研究機関 | 国立研究開発法人水産研究・教育機構 |
研究代表者 |
坂本 節子 国立研究開発法人水産研究・教育機構, 瀬戸内海区水産研究所, 主任研究員 (40265723)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 海洋環境保全 / 有害有毒プランクトン / シスト(休眠期細胞) / 定量PCR / 赤潮 |
研究実績の概要 |
今年度は,有毒渦鞭毛藻Gymnodinium catenatumシストのrDNAを標的配列とした定量PCR法を確立することを目的として,培養株を用いて形成させたシストを用いてDNA抽出方法,およびシストに底泥(0~0.2g)が混在している場合のDNA抽出への底泥の影響を調べた。本種のシストからのDNA抽出には,1)物理的破砕が必要であること,2)底泥が混在していない場合には5% Chelex中での加熱抽出といった簡易な方法で安定的にDNAを抽出でき,抽出したDNAは定量PCRで安定して定量できることが確認された。一方,3)底泥が混在すると定量PCRによる検出が不安定になる,4)底泥混在+加熱抽出ではさらに定量PCRでの検出率が悪くなる,5)しかし,DNA量を測定すると,DNAは抽出できていることから,抽出液中に混在している何らかの物質がPCR反応を阻害している,ことが推察された。 定量PCR分析の結果,本種シスト1細胞あたりのrDNAコピー数は約1900 copies/cellと算出された。また,同じ分析系で定量した場合,本種栄養細胞のrDNAコピー数は約1800 copies/cellと算出された。昨年度検討したシャットネラ属シストとは異なり,本種のシストは単相(n)の配偶子が接合して形成されることが報告されていることから2nであり,栄養細胞は2nである。定量PCRの結果から,シストと栄養細胞のrDNAコピー数はほぼ同じであることが確認された。 瀬戸内海および八代海においてシストの広域分布調査を実施し,底泥採集を行い,現場調査試料を保存した。八代海についてはChattonellaのシストを検鏡により計数し,シストの分布を把握した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
今年度は,G. catenatumシストからのDNA抽出過程に必要な要素の一部を明らかにすることができた。また,シスト1細胞あたりの標的DNAコピー数を明らかにできた。一方で,底泥が多量に混在した場合の定量PCRに適した抽出法の決定には至らなかった。その原因はDNAが抽出されていないのではなく,抽出物に混在する底泥由来の物質が定量PCRの反応を阻害しているというところまでは絞り込めた。また,今年度はG. catenatumシストの発現遺伝子の解析に十分な時間が取れず,発芽に関与すると考えられる遺伝子マーカーを絞り込むことができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
これまでに,底泥試料由来の抽出物は定量PCRの反応を阻害するため精製が必要であるということまでは方法が絞り込めたが,精製方法の検討はまだ十分ではないことから,次年度は,まずDNAの精製条件を確定するための検討を進めたい。定量PCRに適した底泥混在試料からのDNA抽出法を確定した後,その方法を用いて瀬戸内海等におけるシスト分布調査試料の分析を行うことにより,確定した方法の実用性を検証する。G. catenatumのシストについては,昨年度冬季から春季に本種の栄養細胞が発生した豊後水道沿岸海域で採泥を行い,現場調査試料を確保する。G. catenatumシストの発現遺伝子配列情報の解析を進め、シストに特異的に発現している遺伝子の機能推定とマーカー遺伝子の抽出を進める。昨年度,発現遺伝子の解析が思うように進んでいないことから,次年度は一部の解析を外注するなど,解析の効率を上げるための手段を考えたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度分の予算の執行はほぼ当初の計画通りであったが,初年度に発生した残額分がほぼそのまま昨年度の残額となった。しかし,年度末には必要な試薬や実験器具等の不足が生じており,次年度使用額は分析試薬等の購入に使用したい。また,遺伝子解析等データ整理と研究の効率的な推進のため,次年度も臨時職員(1ヵ月)の雇用を検討している。また,シストの発現遺伝子解析が思うように進んでいないことから,解析を外注するための費用に充てることを検討している。
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