研究実績の概要 |
本研究では底泥中のシスト量から潜在的な有害プランクトンの発生リスクを評価するための手法の確立を目指している。底泥中に存在するプランクトンの休眠期細胞(シスト)の存在量をより簡便,正確に把握することを目的として,シストのrDNA量を基に定量PCRにより定量方法の開発を進めてきた。加えて,シストの生理状態,すなわち発芽のタイミングや内的休眠解除の状況を把握するために,休眠や発芽に関与する発現遺伝子を明らかにし,その発現量を定量する方法の開発を目指している。 今年度は,有毒渦鞭毛藻Gymnodinium catenatumのシストの休眠から発芽の過程に関与する遺伝子群を明らかにするための基礎データとして,培養株より得られたシスト(内的休眠から発芽直前の異なる生理状態のシストの混合試料)のmRNA-Seq解析により得られた全配列の機能解析を進めた。得られた116,244コンティグ配列(最小224bp, 最大17,904bp, 平均821 bp)をもとにTrinity解析により,79,840トランスクリプト配列を得た。このトランスクリプト配列についてblastxを用いた相同性解析を実施し,各トランスクリプト配列の機能を調べた。その結果,得られたトランスクリプトの65.8%に当たる52,534配列にアノテーションが付いた。しかし,そのうちの約12,500配列は渦鞭毛藻Symbiodinium属等の遺伝子と相同性が高いが機能が不明な遺伝子,あるいは既報の情報がないタンパク質と推定される配列であった。シストの発芽の促進には光や酸素が関与しているが,シストの発現遺伝子には青色光受容体や低酸素環境下で標的遺伝子の転写活性制御因子となるHIF-1A遺伝子などの機能遺伝子が含まれていた。また,定量PCRの際に細胞あたりの発現量比較に利用可能なハウスキーピング遺伝子としてGAPDHやHPRT1の配列も得られた。今後,シストと栄養細胞とで遺伝子の発現量を比較することでシストの生理状態を示すマーカーを絞り込むための基盤ができた。
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