研究実績の概要 |
本研究では底泥中に存在する有害有毒プランクトンのシストから潜在的な発生リスクを評価するための手法の確立を目指した。手法としてまず定量PCR法を用いた検出法の検討を進めた。有毒渦鞭毛藻Gymnodinium catenatumについては定量系を作製、有害赤潮藻Chattonella属についてはシスト1細胞当たりの標的配列コピー数を推定し、DNA量を用いたシスト細胞の定量系を確立した。一方、底泥が混在する試料では、時にDNAが完全には抽出されず定量性が過小評価となることがある。その影響を排除するためのDNA抽出方法を模索してきたが、安定してDNAを抽出する技術の開発には至らなかった。本研究実施の間、底泥中の生物を対象とした環境メタゲノム解析等において市販のDNA抽出キットの活用事例が多数報告されたことから、本年度は市販の抽出キットを用いた検討を計画、実験準備を進めていたが、秋口に北海道太平洋沿岸で発生した大規模赤潮への緊急対応が業務上必要となったため、本実験は実施できなかった。 本研究では休眠や発芽といったシスト特有の生理現象の指標となる発現遺伝子の探索も試みた。G. catenatumのシストからRNA-Seq解析により得た発現遺伝子の解析を進め、116,624コンティグ配列から79,840トランスクリプト配列を得た。さらに得られた配列にアノテーションを付し、Blast解析による機能推定を行った。シストの発芽は温度や酸素といった外部環境の刺激が引き金となることから、温度や酸素ストレスに関与する遺伝子をコンティグ配列から抽出した。本年度はさらに他の発現遺伝子の発現量を調べるとともに、得られた配列を公的データベースに登録するためのデータ整理を進めた。本研究の成果は、DNAを用いてより正確なシストの計数手法やシストの生理状態を把握するための基盤となると考える。
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