研究課題/領域番号 |
17K07900
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研究機関 | ふじのくに地球環境史ミュージアム |
研究代表者 |
渋川 浩一 ふじのくに地球環境史ミュージアム, 学芸課, 教授 (30435739)
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研究分担者 |
武藤 文人 東海大学, 海洋学部, 准教授 (50392915)
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研究期間 (年度) |
2017-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 分類学的再検討 / 未記載種 / 学名確定 / 間隙性動物 / 魚類 / 環境適応 / 種多様性 / 汀線 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、日本を中心とした東アジアでの爆発的な種分化が判明しつつある間隙性魚類アストラベ群(スズキ目ハゼ科)の分類学的再検討を行い、汀線付近の微細間隙という、脊椎動物の生息場所としては極めて特殊な環境下で醸成された多様性の決定要因を探索することにある。初年度となる2017年度に実施した研究内容とその成果は、以下の通りである。
①アストラベ群の分類学的再検討および学名の確定:研究代表者が所属するふじのくに地球環境史ミュージアム(静岡市)に加えて、国立科学博物館(筑波市)と宮内庁生物学研究所(千代田区)を各々3回・2回訪問し、所蔵標本の外部・内部形態を観察した。宮内庁生物学研究所では、研究協力者の藍澤正宏氏と同群の分類学的問題について協議し、情報を共有した。2017年度は、とくに多くの標本を観察できた静岡県産種を中心とした検討を行い、同県産ミミズハゼ属魚類だけでも24種(うち16種は未記載種)の生息が確認された。これまで学名不詳とされていたイソミミズハゼは、中国から記載された既知種に該当することが確認された。また、種同定に役立つ検索表(記載論文中で順次公表予定)を随時更新した。
②アストラベ群の間隙水環境への適応に関する考察:実際の考察は最終年度(2019年度)に行い、2017・2018年度はその基礎資料・情報の整備を行う準備期間と位置づけている。2017年度には、①で得た外部形態及び中軸骨格(脊椎骨等)等に関する情報を集積するとともに、より詳細な内部形態の観察を可能とする透明二重染色標本の作成を各種ですすめた。また、三保半島沿岸において、詳細な環境測定(砂礫粒度や間隙率、間隙水の塩分濃度、水温等)とそこに見られる同群魚類の種組成や食性(胃内容物)等に関する調査を実施し、各種の生息環境指向に関する情報を収集した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
アストラベ群(スズキ目ハゼ科)の分類学的再検討にあたり、その情報収集のために国内各地の研究機関が所蔵する標本の観察を行うことを計画している。当初、2017年度には5機関の訪問を計画していたが、実際に訪問できた機関は2カ所にとどまった(のべ訪問回数は合計5回)。主な要因は、以下の2点である:①当初の想定以上に多くの観察を要する標本の存在が判明し、両機関ともに複数回の訪問が必要となった;②研究代表者の所属機関に軟エックス線撮影装置がなく、その分の撮影も、同装置を保有する訪問2機関で行わなければならなかった。ただ、訪問できた2機関は、訪問を予定している研究機関の中でもとくに多くの関係標本を保有するだけでなく、アストラベ群の分布域全体から標本が収集されている点でも特筆すべき存在である。2017年度にその内容を明らかにできたことは、本課題研究を遂行するにあたり大きな前進となった。 本課題研究において最も重要な責務は、アストラベ群の種多様性の全貌を明らかにし、その結果を公表することである。2017年度には多くの未記載種の存在が確認でき、分類学的に混乱していた種の学名確定も行った。その進捗状況については、研究会等で口頭・ポスター発表を行った。新種記載を含む分類学的再検討論文も鋭意とりまとめ中である。しかし、2017年度に出版できた論文は既知種の識別と新分布地に関する1報にとどまった。上記訪問先での標本観察に加え、研究協力者等の手配により全国各地から多数の未登録標本が到着し、データの収集・更新にかかる作業が当初の想定以上に発生したことが、その要因となった。未登録標本の整理・情報収集は未だ進行中だが、徐々に収束に向かっており、分析や記載論文とりまとめに資する情報は大幅に増強されつつある。 生態情報に関するフィールド調査は、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
研究計画には、基本的に変更はない。ただし2018年度は、2017年度の進展状況をふまえ、情報の収集・分析の効率化をはかり、分類学的再検討に関する論文生産により重点を置いた内容に調整していく。 2018年度に標本観察のため訪問予定の研究機関は、とくに早急な調査が求められる2カ所に絞る:千葉県立中央博物館 海の分館(勝浦市);高知大学(高知市)。いずれもアストラベ群の種多様性が高い地域にあり、それら地で採集された標本の充実度は他に類を見ない重要な研究拠点である。さらに研究協力者のひとり鈴木寿之氏からは、やはりアストラベ群の種多様性が高いことで知られ、氏の土地勘もある長崎県での補完的な採集を強く勧められている。他の業務を勘案しつつ、訪問の年度内実現の可能性を探る。 論文生産に関しては、当初の予定通り、まず属や種群の定義を行う内容のものをまとめる(年度前半に投稿予定)。同論文にはミミズハゼ属のタイプ種であるミミズハゼLuciogobius guttatusの再記載が欠かせないため、ここで併せて同種を含むミミズハゼ4種群の分類学的再検討も行う(2既知種+1新種)。2018年度内には、ミミズハゼ属の残る4種群すべての分類に関する論文原稿も取りまとめ、順次投稿を目指す。同年度の機関訪問やフィールド調査で得られた知見もできる限り含めるが、年度後半に存在が判明し、記載が間に合わない未記載種等については、最終年度(2019年度)に補完的論文で発表する。アストラベ群で分類学的再検討の必要な他属(セジロハゼ属・コマハゼ属)についての論文は、最終年度に原稿作成し、投稿する。 透明二重染色標本の作成やフィールドでの生息環境・生態調査は2018年度も継続し、アストラベ群の間隙水環境への適応に関する考察(最終年度に実施予定)に向けた基礎資料・情報を整備する。
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次年度使用額が生じた理由 |
【次年度使用額が生じた理由】旅費と人件費において次年度使用額が発生する。旅費は、当該年度に一部かなわなかった研究機関訪問や研究協力者を伴ったフィールド調査を次年度に遂行するために必要である。人件費は、当該年度にはまだ標本の整理・登録作業を実施する体制が整っていなかったため使用が遅れたが、その分の作業を次年度以降に行うために必要である。
【使用計画】旅費に関しては、次年度計画している2研究機関(千葉県立中央博物館 海の分館及び高知大学)への訪問と、長崎県での補完的フィールド採集調査に充当する。後者へは、研究協力者も同行する。人件費は、次年度当初から計画的な標本整理・登録作業を実施し、当該年度の作業遅延を取り戻すことで消化する。
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