本研究の目的は、日本を中心とした東アジアでの爆発的な種分化が判明しつつある間隙性魚類アストラベ群(スズキ目ハゼ科)の分類学的再検討を行い、汀線付近の微細間隙という、脊椎動物の生息場所としては極めて特殊な環境下で醸成された多様性の決定要因を探索することにある。最終年度に実施した研究内容とその成果は、以下の通りである。 ①アストラベ群の分類学的再検討および学名の確定:研究代表者が所属するふじのくに地球環境史ミュージアム(静岡市)に加えて、国立科学博物館(筑波市)と千葉県立中央博物館分館 海の博物館(勝浦市)を各々3回・1回訪問し、所蔵標本の外部・内部形態を観察した。この他にも、研究協力者らの手配により、日本各地の研究者から多数の未登録標本を送付いただき、その整理・登録作業や観察に鋭意取り組んだ。得られた情報をもとに分類学的再検討を発展させ、各種の識別形質を明確化し、種同定に役立つ検索表を随時更新するとともに、同群の分類学的再検討論文の執筆を進めた。同群には51種(未報告の未記載種も含めると54種以上)が含まれることが判明し、その内の半数以上に及ぶ27種(同31種)が未記載であった。 ②アストラベ群の間隙水環境への適応に関する考察:同群で確認されたほぼ全種について外部形態及び内部形態(骨格系・筋肉系)の詳細な比較観察を行い、野外観察で得られた各種の生息環境指向性等に関する情報も併せて、同群の適応放散に関する考察を行った。その結果、同群魚類の骨格系や筋肉系には砂礫間隙での生活に有利と思われる多くの特殊化した状態が見いだされた。とくに種数の多いミミズハゼ属では、従来指摘されていた脊椎骨数の増加傾向だけでなく、「干潮時に干出する潮間帯の砂礫間隙」という競合相手の少ない環境への進出もまた、沿岸に砂礫が堆積するための好条件を備えた日本で爆発的な放散を生じさせた大きな要因と考えられた。
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