研究課題
本研究の目的は、海洋生態系と陸上生態系間を移動する海鳥類によって、汚染物質の輸送が行われていることを検証することである。海鳥類は鳥類の中でも特に移動性が高く、汚染物質の長距離輸送を行っている可能性が指摘されているが、これに関する知見や情報が乏しいため、輸送元となる海域や輸送経路の特定には至っていない。本研究の野外調査は、2017~2019年の5月~6月に北海道天売島のウトウ営巣地内で、同年7月~8月にアラスカ州ミドルトン島のウトウ営巣地内で実施した。越冬期のウトウの行動パターンを調べるため、前年度までに装着したデータロガー(動物装着型行動記録計)を回収した。また、繁殖期に蓄積された汚染物質濃度と安定同位体比を調べるため、血液と羽を採取して化学分析を行った。北太平洋の東(ミドルトン島)と西(天売島)では環境中への水銀排出量が大きく異なっており、この2つ地域についてウトウの行動データ及び体組織等を分析し、比較を行った。その結果、ジオロケーターからは、天売島個体群とミドルトン島個体群は越冬期の移動パターンが似ていることがわかり、浸水ロガーからは、天売個体群の方が越冬期の採餌行動量が大きいことがわかった。また、採取した全てのサンプルから水銀が検出され、ウトウは採餌行動を通じて餌である魚等から水銀を体内に取り込んで蓄積し、繁殖行動を通じて営巣地内に運搬し、排出して陸上生態系へ輸送している経路が示された。さらに、既存の環境中への水銀排出量データと比較したところ、天売島個体群は水銀排出量が高い海域を利用していたが、体組織中の水銀濃度は低く、水銀排出量が低い海域を利用しているミドルトン島個体群と大きな違いがないことがわかった。このことから、大気循環や海流による自然由来の輸送によって水銀が長距離移動し、ウトウ体内の水銀濃度に影響していることが示された。
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