研究課題
本研究では、「営巣繁殖する硬骨魚類の雄の腎臓が雌を巣に誘引するための物質を作り、尿に混ぜて放出している」という仮説の下、本年度は、ギギ科アカザを対象とした繁殖期の営巣による雄の腎臓および膀胱の状態を調べ、状況証拠を得る研究と、トゲウオ科トミヨ属淡水型を用いた行動実験による雌の誘引性の検証を中心に実施した。アカザについては、繁殖中に雄の腎臓が肥大したり、腎臓内の尿細管上皮細胞の肥厚など、これまでに他の営巣繁殖魚種(トゲウオ科、ハゼ科、カジカ科)の腎臓で見られたような現象は見られず、膀胱に尿を貯めている雄も見られなかった。以上より、泌尿器系を利用した雄による雌の誘引という現象はある程度限られた分類具では普遍的であっても、広く硬骨魚類全体に共通する現象ではないことが示された。トミヨ属淡水型については、雄が植物片を接着するために腎臓から分泌する物質に雌の誘引性があるかどうかを検証する実験を行なった。今年度は実験期間中に雄が造巣を行わなかったため、腎臓抽出物そのものが成熟した雌を誘引する作用を持つか否かを検証する行動実験に切り替えた。Y字水路を用いて左右の上流区から雄の腎臓抽出物、雌の腎臓抽出物、または河川水のいずれかを滴下し、下流区の雌が左右の上流区に侵入した回数を比較した。その結果、雄の腎臓抽出物と河川水との比較では雄の腎臓抽出物側への侵入回数が有意に多いことが示された。一方、雌の腎臓抽出物と河川水との比較では、侵入回数に有意な差が認められなかった。また、雄の腎臓抽出物と雌の腎臓抽出物との比較では、使用された雌によっては著しく雄の腎臓抽出物の側への侵入回数が多い場合が認められたものの、全体としては有意な差はなかった。実験上のいくつかの不備(使用された雌の排卵状態など)から明確な結果は得られなかったものの、雄の腎臓には成熟した雌を誘引する物質が含まれていることが示唆された。
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