我々の今までの研究から,コイ血液から調製された膜タンパク質であるコイグリコホリンには,シアル酸を含むオリゴ糖(ペンタオース)が結合し,それには静菌→除菌作用があることを見出した。しかしながら,ヒトで用いられるグリコホリン抽出法は約1%という極めて低い回収率であるため,コイグリコホリンの新しい分離・精製方法を確立し,回収率の飛躍的向上を目指した。そこで,負に荷電しているシアル酸の性質を利用した陰イオン交換カラムを用いる事とし,併せてNaClおよびコール酸ナトリウムによる濃度勾配溶出法を用いることにより,グリコホリンを効率良く調製する単離法を確立した。その結果,ほぼ100%の回収率となるグリコホリン調製法を開発した。次に,抗菌性に関与していないグリコホリンのタンパク質部をリガンドとして利用したグリコホリン結合カラムを作成し,V.anguillarum および M.luteus の細菌懸濁液をカラムに負荷した結果,最大で100%,最低で50%程度の除菌率を計測し,グリコホリン結合カラムによる除菌効果を確認した。さらに,ビブリオ病の病原菌であるV.anguillarum をニジマスに接種して罹病させた魚に,グリコホリン懸濁液を直接血管内に投与し,致死に至る時間を計測して魚病治癒力を検証した。その結果,生存時間に2倍程度の差が認められた。以上の実験結果より,魚類血液より,少量で効果的かつ環境に残留しない除菌剤および抗生物質の開発の目途が立ったと判断した。
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